2019 Fiscal Year Annual Research Report
電場誘起顕微ラマン分光装置の開発と太陽電池及び微生物燃料電池への応用
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18J20312
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
戸田 尚吾 関西学院大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 顕微ラマン分光 / コヒーレントアンチストークスラマン散乱 / 外部電場効果 / イオン液体 / 有機無機ハイブリッドペロブスカイト / 微結晶配向 / ラマンイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は①初年度に開発した電場誘起顕微ラマン分光装置を用いたイオン液体の電場効果の観測,②低振動数偏光ラマン分光法を用いた有機無機ハイブリッドペロブスカイトの微結晶配向イメージング,③コヒーレントアンチストークスラマン分光(CARS)装置の開発を行った。 初年度では電場印加によるイオン液体のラマンスペクトルの変化から,電場によってイオン液体の密度が局所的に変化している可能性を見出していた。本年度は構成イオンの異なる3種類のイオン液体及びグリセリンを用いて電場応答の比較を行い,電場が引き起こす密度の変化はイオン液体特有のものでありイオンの種類によらないことを示唆する結果を得た。イオン液体の電場効果に関連する結果については学会(国際学会と3件,国内学会1件,いずれもポスター発表)で発表し,うち国際学会2件では優秀ポスター賞を受賞するなど高い評価を得た。 初年度では従来の共焦点顕微ラマン分光装置を用いて,ペロブスカイトの低振動数ラマンスペクトルが微結晶によって異なっていることを見出し,この違いが微結晶の配向に由来していると考えてきた。この予想を裏付けるために,分子配向や結晶多型に関する情報を鋭く反映する偏光ラマン分光測定をおこなった。低振動数領域のスペクトル形状は偏光配置および微結晶ごとに大きく異なっていた。幅の広い低振動数偏光ラマンスペクトルを6個のガウス関数で分割し,それらの強度比からラマンイメージを作成したところ,微結晶間の配向の違いを定量的に評価することに成功した。この結果から太陽電池の変換効率に影響を与える一つの因子である微結晶配向を可視化する手法を確立したといえる。ペロブスカイトの配向イメージングの研究内容ついては現在国際学術雑誌に投稿中である。 CARS光学系の構築では,標準試料の信号の観測に成功し,今後さらなる改良とペロブスカイトへの応用を計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に引き続き,イオン液体への電場効果を観測,解析し,電場印加によるラマンスペクトルの変化がイオン液体の密度の変化に由来している可能性を示した。イオン種の異なる3種類のイオン液体とグリセリンの電場応答を比較することで,電場が引き起こす密度の変化はイオン液体特有のものであり,イオンの種類によらないことを示唆する結果を得た。イオン液体の電場効果の観測については当初の予定には組み込まれていなかったが,開発した電場誘起顕微ラマン分光装置のデモンストレーションの一環として行っており,期待以上の結果を得ることができた。 有機無機ハイブリッドペロブスカイトの電場応答の分光観察へ向けて,従来の顕微ラマン分光法を用いて予備実験をおこなったところ,ラマンスペクトルの微結晶依存性を観測した。ペロブスカイト薄膜を構成する微結晶の偏光ラマンスペクトルには顕著な偏光方向依存性および微結晶依存性が観測された。低振動数領域の偏光ラマンスペクトルを基に階層クラスター分析やバンド分割による面積強度イメージングを行ったところ,微結晶ごとに配向方向の違いに由来する明確な差が観測された。この結果からスペクトルの形状を基に太陽電池の性能に密接に関係する微結晶配向を可視化することに成功したといえる。ペロブスカイトの電場応答観測へ向けて十分な予備的知見を得ることができた。 イオン液体の電場応答の観測ではスペクトル測定に長時間かかっていたため,ペロブスカイトや微生物へ応用するためには手法の改良が必須であった。そこで短時間に強い信号強度を得るために非線形光学過程の一種であるCARSを利用した光学装置の開発に着手した。すでに標準試料のCARSスペクトルの観測には成功しており,今後は装置を最適化し,電場応答の高速測定を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
イオン液体に関しては電場応答の,電極からの距離依存性について測定する。イオン液体と分子性液体の電場応答の観測,比較には成功しているため,イオン液体特有の電場効果についての成果を学術雑誌に投稿する。 電場誘起CARS光学系の開発に関しては,まず光学部品や光路の最適化を行い,より高速で測定可能なCARS装置を構築する。完成した装置の空間分解能や波数分解能等を見積り,装置の性能評価を行う。その後,電場効果を測定するためのシステム(電圧発生器や電場印加セル)を光学系に組み合わせ,電場誘起CARS分光装置を完成させる。 ペロブスカイトの電場誘起CARSスペクトル測定に向けて,電極上に試料を成膜する。これまでの方法で電極上に成膜したペロブスカイト薄膜上にPMMA高分子膜および銀電極を蒸着法によりコートすることで,電場印加セルを作成する。試料には有機無機ハイブリッドペロブスカイトのプロトタイプであるヨウ化鉛メチルアンモニウム(MAPbI3)と有機カチオンをブチルアンモニウムカチオンに置換したヨウ化鉛ブチルアンモニウム(BA2PbI4), さらにMAとBAの双方を有する混合型のペロブスカイトを用いる。有機カチオンの信号が観測される指紋領域(500-1800 cm-1)に注目し,ペロブスカイトの電場応答を観測,解析する。得られた信号を基に電場印加時の有機カチオンのふるまいや結晶構造への電場効果の解明を目指す。 3年目に予定していた集団微生物への応用に関しても,モデル微生物である大腸菌と枯草菌を用いた観測を始める。安定同位体標識法を利用し,外部電場が微生物の代謝に与える影響を観測する。初年度に作成した電場誘起顕微ラマン分光法を用いた場合,測定時間の問題で微生物への応用は不可能であるが,電場誘起CARS光学系を利用すれば,外部電場が微生物の代謝に与える影響などを経時的に観測できると考えている。
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