2019 Fiscal Year Annual Research Report
北東アジアの塩類土壌地帯での再造林樹種に資する新耐性指標の探索と利用
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18J20319
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
菅井 徹人 北海道大学, 農学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 耐塩性 / カラマツ属 / ハコヤナギ属 / 養分恒常性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、将来の変動大気環境下における中国東北部での再造林を想定して、大気汚染や土壌塩類化によるストレスが、植栽が期待されるカラマツ属や、既に緑化樹として植栽されているハコヤナギ属に与える生理的影響を評価する。これらの課題を通じて、塩類土壌環境における林木育種基盤の構築を目指す。 2019年度は、昨年度の実験結果に基づいて、①再度、操作実験を行い、単独の塩ストレスに対する樹種間での経時的な応答を比較しつつ、同時に②昨年度までに得られた研究成果に関する論文執筆を行った。①2018年度の試験結果に基づいて、2019度の実験は塩ストレス応答のみに着目し、時系列な形質応答や近縁種間比較、また従来から利用される緑化樹との比較も行った。実験では該当となる対象樹種について、種子の発芽段階から、短期・中期的な初期成長の段階に至るまで、追跡測定を行った。このように2019年度の実験では、処理項目を減らす代わりに、発達段階に応じた応答をモニタリングすることに注力した。 ②において、2018年度まで行った大気汚染物質である対流圏オゾン(地上から高度11 kmまでのオゾン)と、塩ストレスとの複合影響に対して、グイマツ苗木とカラマツ苗木の生理成長応答を比較した。本実験では、塩ストレスに対するカチオン元素の恒常性を予想し、ICP-MASSによる元素の一斉分析を行った。実験の結果、グイマツ苗木はカラマツ苗木よりも、塩ストレス時におけるカチオン元素の恒常性が優れており、またカリウム以外の元素濃度も塩ストレス時に増加していた。本実験では、オゾンによる成長への影響が検出されなかったが、オゾンに暴露された個体でもカチオン元素の恒常性は変化しなかった。オゾンは直接的にガス交換速度を阻害するため、元素の維持機構は蒸散速度以上に、樹体内の養分の分配応答によって制御されている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の実験では、処理項目を減らす代わりに、発達段階に応じた応答をモニタリングすることに注力した。改訂した実験系を通じて、塩ストレスに対する樹種間での経時的な応答を、形態生理的な形質に注目して定量することに成功した。また、これまで行った研究成果をまとめることで、耐塩性の生理的機構の理解が前進した。最終年度では、さらに2019年度の成果を統合し、本研究の最終目的の達成を目指す。一方、昨年度までに得られていた膨大なサンプリングとデータ量を解析することで、複数の国際学術雑誌に論文投稿、受理された。年度後半では本年度に得られたデータの一部を学会にて公表することも叶ったが、年度末では新型コロナウイルスの影響で、参加発表を予定していた学会がキャンセルとなってしまった。最終年度では、得られたデータの解析を進めた上で、更なる成果の創出を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度では、これまでの実験で得られた結果を統合して成果の創出を目指す。2019年度では、2018年に行った試験結果に基づいて、再び栽 培実験系を設定し、より明確な実験デザインに基づいた試験を行った。従来の複合ストレスの評価はとりやめ、単独の塩ストレスに限定し、さ らに複数の塩濃度を設定し、処理応答の再現性を確認した。2019年度では栽培をはじめとした実験に追われてしまい、データの解析を進める時間が十分に確保できなかった。このため、2020年度では、2019年度で得られた成果を早急にまとめ、解析すると同時に、栽培試験から得られたサンプルの分析を同時並行でめる。結果の統合と考察を深めた上で論文の執筆に取り掛かる。
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