2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J20466
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
角田 有 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 符号理論 / 確率的組合せ論 / X符号 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,数学の一分野である確率的手法を用いて,X符号をはじめとする種々の組合せ構造の存在性や性質について理論的に明らかにすることを目的としている。X符号とは元来,製造された大規模集積回路が設計通りに製造されているかを確認するためのテスト工程の容易化に用いられる情報圧縮回路を数学的に行列の形で抽象化したものであるが,実用上の要請から,この行列の列重みは一定であることが望ましい。したがって,本年度はその中でも基本的な列重みが3で一定であるX符号に焦点を当て,X符号によってどこまで情報圧縮可能であるか,つまり,X符号の圧縮比はどこまで大きくなれるのかという理論上重要かつ解決必至の問題を考究した。 本年度の研究成果のうち,特に重要なものと目されるものは,誤り訂正符号理論へのX符号の応用可能性の発見である。一般に,情報の誤りを訂正するための最も基本的な技術の一つである線形符号では,誤りを訂正する際にパリティ検査行列と呼ばれる特殊な行列を用いる。典型的な誤りの例であるビット反転だけを考える場合にはこれで十分であるが,データが読めなくなるといった消失誤りも同時に起こりうる場合には,separating 行列と呼ばれる特殊なパリティ検査行列を用いることが提案されている。本研究では,separating 行列とX符号の数学的構造上の類似性を指摘し,separating 行列と同様,X符号でも効率的の二種類の誤りを訂正できることを示した。なお,この研究成果は国際論文誌 IEEE Transactions on Information Theory に掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
列重みが3で一定であるX符号の圧縮比については,特定のパラメータにおける限界式や特別な場合の限界式は知られていたが,そういった特殊な場合以外の理論研究はその重要さにも関わらず,ほとんどなされていなかった。本研究では,列重みが3で一定であるX符号の圧縮比の必要条件を,グラフ除去補題と呼ばれる極値集合論においてよく知られた補題を用いることで導出することに成功した。また,確率的手法を用いて列重みが3で一定であるX符号の存在性を示し,圧縮比の限界式を導出した。さらに,その限界式を達成するX符号を多項式時間で構成する効率の良いアルゴリズムを考案した。 また,研究実績の概要で述べたように,X符号は元来,情報圧縮回路を数学的に抽象化した行列であるが,本年度の研究において,X符号の新たな応用可能性が発見された。具体的には,誤り訂正符号理論において,X符号と数学的によく似た組合せ構造である separating 行列という特殊な行列を用いることで典型的な誤りであるビット反転とデータが読めなくなるといった消失誤りの二種類の誤りを同時に訂正できることが知られているが,separating 行列の代わりにX符号を用いて,従来と同様に二種類の誤りを訂正できることが判明した。 当初の予定では,列重みに何の制限の無いX符号についての既知の限界式を改良する予定であったが,期せずして,より実用的な条件を満たすX符号に対する限界式ならびに構成法の導出にいたっており,概ね順調に研究が進展していると思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
前述の通り,本年度の研究において,X符号を用いることでビット反転と消失誤りの二種類の誤りを効率的に訂正可能であることを示した。ここで重要な事実は,従来手法で二種類の誤り訂正の際に用いる separating 行列と比べるとX符号はシンプルな構造をしており,separating 行列が一般に構成するのが難しい一方で,X符号は比較的簡単に構成できる点である。つまり,X符号の誤り訂正符号理論への応用可能性の発見は,ビット反転と消失誤りの二種類の誤りの効率的な訂正方法の実用可能性を広げ得る意義深いものである。したがって今後は,X符号が separating 行列と比べてどれだけシンプルな構造なのか追求すべく,それぞれの特徴を明らかにしていくと共に,X符号と separating 行列との差分を上手く活かしたビット反転と消失誤りの訂正法などについて考究するのが望ましいと考える。 これと並行して,本年度に引き続き,情報圧縮技術としてのX符号の特徴も理論的に明らかにしていき,これらの研究の中で,確率的組合せ論の他の組合せ構造への応用可能性も随時検討していく予定である。
|
Research Products
(9 results)