2019 Fiscal Year Annual Research Report
Study of quantum dynamics of spin current through high-frequency noise measurement
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18J20527
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岩切 秀一 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | スピン流 / 磁化ダイナミクス / マグノン / 非線形 / 非平衡 / 輸送現象 / 微小強磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子輸送現象における電流-電圧特性は、電子の散乱過程の微視的な情報を含んでいる。一方、線形応答の範囲を超えた非平衡領域では非線形輸送すなわち電流電圧の比例関係の破れが現れるが、その微視的な機構を解明することはいまなお挑戦的な問題である。従来、電子と素励起の相互作用が、非線形輸送に本質的に寄与することが知られているが、電子や素励起のスピンと非線形輸送との関係性は、ほとんど調べられていなかった。 本研究は、スピン伝導の舞台である磁気トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction; MTJ)を用いて、その非線形輸送に注目した。MTJは、強磁性体/絶縁体/強磁性体からなる微小接合である。この試料においては、磁化ゆらぎの量子であるマグノンと電子との相互作用、すなわち電子-マグノン相互作用が輸送特性に影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、MTJ素子の電流電圧特性を系統的に測定し、非線形輸送のメカニズムを解明することを目指した。試料として、CoFeB/MgO/CoFeBからなるMTJを作製し、電流電圧特性の磁場およびMgO絶縁膜厚の依存性を測定した。測定された電流Iを、電圧Vに対して多項式フィッティングを行ったところ、MgO膜厚や温度に依らず、線形伝導度(Vに依存せず定数)と、非線形伝導度(V2に比例)に負の相関(スケーリング関係)があることが明らかになった。 さらに、このスケーリング関係は、電子がマグノン(磁化ゆらぎの素励起)と相互作用することで伝導するという、マグノン支援トンネルの効果を取り込んだモデルで定性的に説明できた。現在、モデルの精密化や更なる実験を計画し、今後はさらに定量的な解析が期待される。 今回実験的に得られたスケーリング関係やマグノン支援トンネルは、スピンに依存した非線形輸送の微視的な理解を与え、非線形領域における新たな普遍性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、微細加工や高周波測定を駆使することで、スピン輸送や磁化ダイナミクスといったスピンに依存する非平衡現象を解明しようとするものである。二年目となる本年、特別研究員(以下、研究員)は前年度に構築した微細加工技術や測定系を様々に活用し、(1) スピン流を用いた非線形磁化ダイナミクスの励起 (2)トンネル磁気接合素子におけるスピン依存非線形輸送のメカニズムについての研究を開始した。これらの研究において、研究員はテーマの構想・試料作製(成膜および微細加工)・測定・解析の各段階を主体的に遂行している。また、得られた結果について研究員自らが理論家とコンタクトを取って議論を進め、成果の一部は論文を執筆する段階にまで至っている。このように、研究員は計画以上の進度で当該研究を遂行している。 さらに、研究員は研究を一層深化させるため、低温・強磁場における輸送測定技術や伝導チャネルの実空間観測技術を習得し、次年度以降の研究に向けた準備も着々と進行している。 以上の点から、本年度の研究進捗状況については当初の計画以上の進展があったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までに微細加工技術や測定系の構築を行い、それを活用することでスピン流を用いた非線形磁化ダイナミクスの励起や検出が可能になった。それらの研究により、ナノスケールの磁性体デバイスとスピン流を用いることで、磁化というマクロな物理量の非線形・非平衡ダイナミクスを制御できることを実証してきた。現在は、こうした現象におけるミクロな物理的メカニズムを解明することが課題として残されている。そこで本年度は特に、トンネル磁気接合素子におけるスピン依存非線形輸送のメカニズムについての研究にさらに重点を置いて研究を遂行する。 強磁性体-絶縁体-強磁性体からなる磁気トンネル接合においては、電子トンネルが支配的な輸送プロセスとなるため、バルクで顕著になる多重散乱などの効果を取り除いた輸送の素過程を研究することができる。そのため、磁気トンネル接合における電流-電圧特性には、輸送における電子スピンの反転やエネルギー変化といった情報が含まれていると考えられる。これらは、本研究がこれまで達成してきたスピン流による磁化ダイナミクス制御のミクロな機構解明につながると同時に、線形応答を越えた領域の物理法則を、そのスピン依存性までを含んだ形で探求するものである。 そこで本年は、現在まで得られている結果をふまえ、磁気トンネル接合における非線形輸送をさらに詳細に測定・解析する。具体的には、接合素子の作製、温度・磁場・絶縁膜厚に対する非線形輸送の依存性を系統的に測定するとともに、微視的な理論モデルと照らし合わせて定量的に解析を進めることで、磁気トンネル接合を舞台としたスピン依存の非線形輸送について普遍的な理解を得ることを目指す。
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Research Products
(5 results)