2019 Fiscal Year Annual Research Report
高度に立体制御されたリビングカチオン重合系の創出と機能性材料への展開
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18J20555
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
渡邉 大展 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | カチオン重合 / リビング重合 / 立体規則性 / ビニルエーテル / TADDOL / 不斉触媒 / 重合触媒 / 結晶性ポリマー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はおもにビニルエーテル(VE)類の重合における立体制御を以下の2つのアプローチで検討した。 (1)モノマー構造の設計 昨年度、N-ビニルカルバゾール(NVC)の立体特異性リビング重合系を用いて種々のVEを重合したところ、ベンジルVE(BnVE)を用いた際に比較的高い立体規則性を発現し、NVCと似た重合挙動を示すことがわかった。これは側鎖のベンゼン環が特異的な働きをしたためではないかと考え、本年度はBnVEと同様にベンゼン環をもちスペーサーがメチレン1つ分長い2-フェニルエチルVE(PhEtVE)、及びベンゼン環の代わりに脂肪族六員環を有するシクロヘキシルメチルVE(CMVE)等を用いて同様の開始剤系で重合を行った。その結果、PhEtVEではBnVEほどではないが重合条件による立体規則性の変化が明確に観測され、CMVEやその他のアルキルVEではほぼ変化が見られなかった。このことから、本系における立体制御には側鎖の芳香環が重要であると示された。 (2)触媒構造の設計 触媒構造の設計により配位重合のように体系的に整理された立体特異性カチオン重合系を構築することを目指した。そのために本研究ではTADDOL配位子に着目した。TADDOL類は低分子の不斉合成などで用いられ、 (1) 天然に豊富に存在する酒石酸から安価かつ容易に合成可能、(2) 置換基の詳細なチューニングが可能、(3) Tiなどの金属と構造の明確な錯体を形成するというメリットを有する。種々のTADDOLとTiCl4を組み合わせた錯体を触媒としてVE類のカチオン重合に用いたところ、興味深いことにこの触媒がVEの立体規則性制御にきわめて有効であることがわかった。NMRによるポリマー解析の結果、m二連子の割合がnBuVEやnPrVEでは~83%、IBVEでは90%を示し、さらにPhEtVEでは93%という非常に高い値を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定した計画は順調に進んだ。研究概要に示した通り、モノマー構造および触媒構造という2通りのアプローチのそれぞれにおいて、種々のVE類の立体特異性カチオン重合系を見出した。当初の計画以上の点として以下のものが挙げられる。 ・NVCの立体特異性リビング重合系を用いて、芳香環を側鎖に有するVEの立体規則性を制御できることが示唆された。これは、様々な芳香環をもつモノマーを用いて機能性ポリマーの合成を可能にするだけでなく、この系を用いた立体特異性重合の反応機構にも知見を与える重要な結果である。 ・酒石酸由来TADDOL-Ti錯体によるVE類の立体特異性カチオン重合系を見出した。これにより多様なアルキルVEを用いた立体特異性重合が可能になる。さらに、簡単かつ安価に精密設計が可能というこの錯体の優れた特徴を活かし、今後の研究で触媒構造と立体規則性の関係を詳細に検討することで、立体特異性カチオン重合の設計原理を明らかにするための理想的なプラットフォームとなり得る。 ・メントールやボルネオールに由来するキラルなVEをキラルなTADDOL-Ti錯体により重合したところ、キラリティの組み合わせにより生成ポリマーの立体規則性が大きく変化することがわかった。これはTADDOL-Ti錯体がモノマーやポリマー側鎖のキラリティを認識することを示しており、きわめて珍しい不斉カチオン重合系につながる結果である。 ・共同研究により、立体規則性がポリNVCの電気的性質に大きな影響を与えることを明らかにした。 これらの結果は、従来困難とされてきた立体特異性カチオン重合を大きく進展させるものであり、期待以上の成果であった。以上の様な点から、本研究課題の達成度に関して当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の結果を踏まえ、2020年度は以下のような検討を行う。 (1) さまざまな芳香環を有するモノマーから立体規則性ポリマーの合成を検討する。かさ高い芳香環は光学的、電気的に興味深い性質をもつため、生成ポリマーの物性についても調べる。 (2) 種々の置換基を有するTADDOLを合成し、重合挙動と立体規則性に与える影響を調べる。さらに、NMRの解析や理論計算により、立体制御の反応機構についてもより詳細に検討する。これらの検討により、触媒構造と立体規則性の関係を明確にし、立体特異性カチオン重合触媒設計の指針を創出することを目指す。また立体規則性の制御とリビング重合との両立や共重合についても検討を行う。
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Research Products
(4 results)