2019 Fiscal Year Annual Research Report
近傍銀河の高角分解能分子ガス観測から探る重い星の形成条件
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18J20641
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
前田 郁弥 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 近傍銀河 / 星形成 / 分子雲 |
Outline of Annual Research Achievements |
典型的な棒渦巻銀河NGC1300の腕部では活発に重い星を形成しているのに対して、棒部では重い星の形成は見られない。本研究では、この星形成の差が生じる原因を突き止めることで、重い星の形成条件の解明に迫っていく。 前年度の研究により、分子雲の束縛状態が異なることが星形成の差を生む可能性は否定された。そこで2019年度は、星形成の差を生む別の2つの説を検証した。1つは、希薄な分子ガスの量が異なる説である。分子ガスは星形成の現場である分子雲と、その分子雲の周辺に広がっている希薄な成分に分かれる。希薄な分子ガスは星形成には関与していないが、その量が棒部では腕部に比べて多いため、星形成効率が低くなることが前年度の研究から示唆された。この説を詳しく検証するために、ALMAと野辺山45-mのデータを用いて希薄な分子ガスの割合の空間分布を調べた。その結果、希薄な分子ガスの割合と星形成効率の間に負の相関を発見した。すなわち、棒部では大量の希薄な分子ガスがあるために、星形成効率が低くなっていることが分かった。 次に、分子雲の衝突速度が異なる説を検証した。分子雲衝突は、短時間に分子ガスを高密度に圧縮し大質量星の形成を促進させる、星形成の重要なプロセスであると考えられている。しかしながら、棒部では腕部に比べて衝突速度が大きく、衝突している期間が短いため、星形成が誘起されない可能性が示唆されている。共同研究者を中心として、NGC1300をモデルとした流体シミュレーションを行った。その結果、棒部では分子雲の衝突速度が腕部に比べて大きいことが明らかになった。すなわち、棒部では衝突速度が大きいために、星形成効率が低くなっていることもわかった。 以上から、銀河内部の星形成効率は希薄な分子ガスの割合と分子雲同士の衝突速度によって決まることが明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は3つあった。第一の目標は、NGC1300の分子雲の性質を調べた研究結果をまとめて論文を出版することであった。これについては、解析と執筆作業は円滑に進み、無事に出版することができ、また国際学会での発表も行うことができた。 第二の目標は、希薄な分子ガスの割合の空間分布を調べることであった。これについても、野辺山45-m望遠鏡に提出した観測提案が無事採択され、観測が実行できたおかげで、その空間分布が明らかになった。観測の結果をまとめる作業も順調であり、19年度中に論文を投稿する直前までの段階となった。 第三の目標は、共同研究者が中心となって行う分子雲の衝突速度を調べるシミュレーションとの比較検証作業に着手することであった。共同研究者の尽力のおかげで、シミュレーションによってNGC1300での分子雲の衝突速度の違いが明らかになった。また、他研究グループと議論を密に行ったことで、観測から衝突速度を推定する方法にも目処がたった。よって、20年度には観測から衝突速度を求め、それをシミュレーション結果と比較可能であると考えている。 このように、本年度の3つの目標について、その全てをおおむね遂行できたため、本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
シミュレーションによって分子雲衝突の速度が棒部と腕部で異なることが明らかになった。今後は、観測データから分子雲の衝突速度を推定し、シミュレーションと比較していく。そのためには、銀河内の大局的な速度場を再現するモデルを作る必要があるが、その手法については目処が立っている。平均的な速度場が求まり次第、初年度に同定した分子雲のカタログを用いて、分子雲の視線速度より衝突速度を推定する予定である。 また、希薄な分子ガスの分布を調べる。希薄な分子ガスが分子雲の周りにどのように分布を調べるための新たなALMAの観測提案がすでに採択され、観測が行われている。このデータを解析し、希薄な分子ガスの性質と分子雲の衝突速度の関係を調べ、最終的には重い星が起きるための条件解明を目指す。
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Research Products
(9 results)