2018 Fiscal Year Annual Research Report
哺乳類の眼における光応答性季節変動の分子機構の解明
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18J20765
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
沖村 光祐 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 季節応答 / 日長 / 環境温度 / 網膜電位図 / トランスクリプトーム |
Outline of Annual Research Achievements |
赤道付近以外の地域に生息する動物の多くは、日長や温度などの外環境の季節変化に対して、自らの生理機能や行動を巧妙に変化させることによって適応する仕組みを有している。冬眠や渡り、季節繁殖などは動物の季節応答として古くから知られている。近年、小型魚類のメダカの眼において、光受容からその下流の情報伝達にかかわる遺伝子群の発現量が季節間で異なることがトランスクリプトーム解析により明らかにされた。さらに、眼における遺伝子の発現量季節変動はメダカの色覚に季節変動をもたらすことが示唆された。興味深いことに、ヒトの色覚も季節によって変化することが示唆されてきている。また、季節性気分障害患者はうつ症状が現れる冬季において網膜の光応答性が低下し、気分低下が解消される夏において網膜の光応答性は回復することが報告されている。しかし、哺乳類において色覚や網膜の光応答性の季節変化をもたらす分子基盤は解明されていない。 本研究では、哺乳類の眼の光応答性に及ぼす季節情報の影響について、マウスを用いて検討することを目的とした。冬を模した短日低温条件下または夏を模した長日温暖条件下でマウスを飼育し、網膜電位(ERG)を測定し光応答性に及ぼす季節情報の影響を調べた。短日条件下で飼育したマウスは長日条件下で飼育したものに比べて暗順応下における網膜光応答性が低下していることが明らかになった。続いて網膜光応答性の変化をもたらす分子機構の検討のために、各飼育環境下におけるマウスの眼を用いてRNA-seq解析を実施した。その結果、マウスの眼において季節情報の影響を受けて発現変動する遺伝子群を見いだすことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、日長および温度が異なる季節環境下に暴露されたマウスの眼における光応答性が変化することを明らかにした。さらに、マウスの眼を用いたRNA-seq解析を実施し、季節情報の影響を受けて発現が変動する遺伝子群を抽出している。しかし、日長または温度のいずれの季節情報が眼の光応答性の変化に主要な原因となっているかは同定できていない。また、RNA-seq解析で抽出された遺伝子群が眼の光応答性に及ぼす影響について、検討が求められる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、本研究はマウスの眼の光応答性は季節情報の影響を受けて変化した。さらに、マウスの眼を用いたRNA-seq解析により、季節変動を示す遺伝子群を抽出している。今後は、(1)眼の光応答性の季節変化をもたらす季節情報の同定、(2)RNA-seq解析で抽出された発現変動遺伝子の機能解析を行い、網膜光応答性の季節変化の分子基盤の解明に迫る。 【(1)眼の光応答性の季節変化をもたらす季節情報の同定】日長と温度を同時に変化させた環境下で飼育した時、マウスの眼の光応答性は短日低温条件下で飼育した時に低下することが明らかになった。そこで、日長と温度という季節情報をそれぞれ独立に操作した環境下でマウスを飼育し、網膜電位の変化を測定することで、いずれの季節情報が眼の光応答性季節変動に重要かを明らかにする。 【(2)RNA-seq解析で抽出された発現変動遺伝子の機能解析】RNA-seq解析から抽出された発現が変動する遺伝子のknockoutマウスを用いて、遺伝子発現変化が網膜光応答性に及ぼす影響を検討する。また、これらの発現変動遺伝子群が関わる多くのパスウェイは薬理学的に操作可能であることが示唆されるため、薬理学的な手法を用いた機能解析も視野に入れている。
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Research Products
(3 results)