2019 Fiscal Year Annual Research Report
第一原理分子動力学法の反応経路地図解析と励起ダイナミクスへの展開
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18J20856
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
堤 拓朗 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ab initio分子動力学法 / 固有反応座標 / 反応経路自動探索法 / グローバル反応経路地図 / 動的反応経路 / 可視化 / 古典的多次元尺度構成法 / SN2反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子化学計算に基づく化学反応機構の解析には、固有反応座標(IRC)が用いられている。IRCは反応物、遷移状態構造、生成物を結ぶ最小エネルギー経路として定義されており、IRCに沿った構造変化やエネルギー変化から化学反応機構に関する直観的描像が得られる。近年、反応経路自動探索法により、与えられた分子系に関するIRCを芋づる式に求めることが可能になり、反応経路ネットワークの概念が生まれた。一方、実際の化学反応においては反応ダイナミクスも重要な役割を果たす。経験的なパラメータを必要としないab initio分子動力学法では分子系が持つ運動エネルギーが考慮された古典軌道が得られるが、これらは膨大な時系列データであるため化学反応に関与する情報のみを抽出することは困難であった。反応経路ネットワークは反応ダイナミクスの舞台であるポテンシャルエネルギー曲面を表しているため、古典軌道を反応経路ネットワーク上に射影できれば、古典軌道が走る動的反応過程が直観的に理解しやすくなる。申請者はこれまでに反応経路ネットワークに基づいて古典軌道を解析する新しい方法論を開発してきた。 本年度は、これまでに取り組んできた反応経路ネットワークに基づく古典軌道解析法と多次元データ縮約法(古典的多次元尺度構成法)による反応経路ネットワークの可視化をつなぎ合わせ、低次元化されたIRC部分空間にAIMD古典軌道を射影することを目指して研究を進めた。はじめに、古典軌道をあらかじめ用意された部分空間に射影する汎用的プログラムを開発した。本年度では、プログラムの高速化にも取り組み、プロトタイプよりも数十倍計算速度が向上した。次に、手法の有用性を確かめるために、SN2反応の解析に取り組んだ。解析の結果、IRCに沿った曲率が大きな領域から古典軌道がIRCから逸れるというような動的反応描像が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、古典軌道が辿る動的反応経路の可視化に取り組み、汎用的なプログラムを開発することができた。また、昨年度に開発したプロトタイプでは計算コストの観点から分子の数が数十個程度の可視化に留まっていたが、アルゴリズムを見直すことで数百個程度の分子群に対する可視化が可能になった。これらは当初想定していない研究であるが、二次元または三次元空間に反応経路ネットワークや古典軌道を可視化することで、複雑な化学反応をより直観的に捉えることができるようになった。反応経路の低次元化は、座標空間(3N-6:Nは原子数)から反応経路に沿った分子構造変化を表現することができるような座標軸を選び出す手続きであるため、適切に反応経路ネットワークを低次元空間に落とし込めれば、反応ダイナミクスの舞台であるポテンシャルエネルギー曲面を広い範囲で表現できるようになる。以上のことから、本年度までに研究課題であるの反応経路地図解析のための準備が整ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発してきたab initio分子動力学法の反応経路地図解析を複雑な失活経路を有する励起状態ダイナミクスに適用する。励起状態反応は垂直励起後、励起状態ポテンシャルの勾配を感じながら運動を開始するため、静的反応経路解析だけではなく、ダイナミクスに基づく議論が重要である。2020年度は1,2-ブタジエンの光励起反応などを題材に、垂直励起後に到達するフランクコンドン領域からポテンシャル交差領域を経て基底状態へ失活する様子を追跡する予定である。
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