2019 Fiscal Year Annual Research Report
クロロフィルのMgを脱離する酵素SGRの触媒機構と生理的役割の解明
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18J20898
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小畑 大地 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | STAY-GREEN / クロロフィル分解 / 触媒機構 / アミノ酸置換 / 酵素 / 代謝系 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、クロロフィル分解系の最初の反応を触媒するMg脱離酵素SGRの①Mg脱離機構、②基質認識機構、③クロロフィル分解が支配する植物の老化メカニズム、④クロロフィル分解系の進化の4点を明らかにする計画である。本年度は、④を完成させ、①を引き続き取り組んだ。 ④植物のSGRと類似したタンパク質が、光合成をしない細菌にも存在するという興味深い発見をした。そして、それらの中にはSGRのMg脱離活性を超えるものがあることが判明した。我々は、この高いMg脱離活性を持つホモログが植物へ水平移動してきたことでクロロフィル分解酵素としてのSGRが誕生したという説を提唱した。SGRホモログの宿主内にはクロロフィルがないため、Mg脱離活性は代謝系に組み込まれていない潜在的な活性である。このような活性は低く保たれているという説が主流で、先行研究における酵素の潜在的な活性による代謝系の進化においてもそれが前提である。これに対して、我々は「高い」潜在的な活性の存在を示し、水平移動との組み合わせによって酵素と代謝系が進化することを、SGRを例に提唱した。このような進化シナリオはこれまでに報告がなく、特に遺伝子の水平移動が主な進化の原動力である原核生物の代謝系の進化をこれまで以上によく説明できる。本研究はMolecular Biology and Evolution誌に報告した。 ①SGRは配位結合の切断という新規の触媒反応を担う酵素であり、その触媒機構の解明は酵素学的に重要な知見となる。しかしSGRは類似の構造すら報告がなく、活性測定は高価であり、様々な面で解析が困難であった。我々は大腸菌タンパク質発現系の改良を重ね、SGRホモログの大量発現ならびに高純度精製に成功した。これにより、基質とタンパク質間の結合の光学的解析や構造解析に向けての基盤が整い、より詳細な触媒機構の提案ができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究1年目は、申請時には計画していなかったが、④クロロフィル分解系の進化に関して新たな発見があったため、こちらに時間を割いた。そのため、2年目は1年遅れる形で①Mg脱離機構の研究に取り組んだ。計画上では研究の進捗は遅れているが、これはいい意味で予想していなかった結果が出たことで起きたことである。従って、どちらかというと研究は進んでいると考えている。 本年度は1年目に行った④の研究成果をまとめ、Molecular Biology and Evolution誌に報告した。光合成をしない細菌にもクロロフィル分解酵素SGRのホモログが存在することを発見した。系統解析からは、細菌のSGRホモログが水平移動を介して緑色植物の共通祖先に獲得され、Mg脱離酵素SGRが進化・誕生したことを示唆された。さらに驚くことに、SGRホモログの中には緑色植物SGRのMg脱離活性を超えるものがあると判明した。クロロフィルを持たない細菌において、Mg脱離活性は生理学的な意味がない潜在的な活性である。先行研究ではこのような活性は低いという考えが通説であった。これに対して、我々はSGRと植物のクロロフィル代謝系を例として、酵素の潜在的な活性には高いものも存在することを示し、水平移動と組み合わさることで酵素と代謝系が進化するという新しい進化シナリオを提唱した。 上記の研究とは別に①の研究にも取り組んだ。クロロフィルは酸によるH+供与でMgを脱離するため、SGRの触媒には酸性アミノ酸残基が関与すると予想した。触媒に関わると考えられる酸性アミノ酸残基を置換したが、タンパク質発現量が低く、活性が測定できなかったことで個々の残基の機能が決定できずにいた。我々は大腸菌でのタンパク質発現系を更に改良し、大腸菌内のタンパク質の大部分がSGRとなるような系を開発し、この問題の解決に取り組んでいるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続きSGRが触媒する①Mg脱離機構の解明に取り組む予定である。2年目の研究により、SGR(ホモログ)を大腸菌タンパク質発現系で安価・簡便・大量に発現することができるようになった。さらに、発現した目的のタンパク質は2段階の精製を経ることでほぼ純粋なサンプルにすることも可能になった。このことより、生化学的な実験のクオリティを引き上げることができると考えている。 今後計画している実験は主に3つで、精製したSGR(ホモログ)とそのアミノ酸置換体を用いた(A)活性の再測定、(B)CDスペクトルによるタンパク質構造の簡易測定、(C)差吸収スペクトル法による基質と酵素の相互作用の解析をする。 まず、(A)により活性に影響を与えるアミノ酸残基を調べる。触媒に関与しているならば置換により活性が消失すると考えている。そして、(B)の実験によりアミノ酸置換体のタンパク質構造を調べることで、活性の消失がアミノ酸残基の置換によるものか、立体構造の変化によるものなのか原因をはっきりさせる。最後に、(C)により基質の結合に関与するアミノ酸残基を調べる。(C)の実験は、色素であるクロロフィルがタンパク質と相互作用した際に吸収波長がずれることを利用するもので、色素の状態を観察する手法である。 SGRが触媒するMg脱離反応はSTAY-GREENドメインという構造により触媒される。このドメインを構成するアミノ酸配列は既知のどの配列とも似ていない。そのため、STAY-GREENドメインの構造決定は新しいタンパク質構造を決定するという重要なインパクトを与えることになる。そのため、X線結晶構造解析やNMRを専門とする研究室と共同研究を行い、このドメインの構造決定、そしてより詳細な触媒機構の提案をしたいと考えている。
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Research Products
(5 results)