2018 Fiscal Year Annual Research Report
高速時間分解磁気光学イメージングを用いたスピン波分光学の構築
Project/Area Number |
18J21004
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
日置 友智 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 磁気光学イメージング / ポンププローブ測定 / スピン波 / 磁気弾性波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は電子系では一般的となりつつある、バンド構造の幾何学的性質に由来する新奇な物性領域を、磁気秩序の素励起であるスピン波に拡張することを目指すものであり、本年度はその端緒を拓くべくスピン波のベリー位相効果を観測可能とする測定系を構築した。本研究では、ポンププローブ分光法と磁気光学イメージング法を融合させた超高速磁気光学イメージングを利用してスピン波の伝搬ダイナミクスを観測する。従来の超高速磁気光学イメージングではスピン波のベリー位相効果が現れると期待される面直磁化膜のスピン波ダイナミクスを観測することが困難であったため、本年度は面直磁化膜で磁化ダイナミクスを観測可能な手法を確立した。 スピン波におけるベリー曲率は先行する理論研究において長波長のスピン波について計算されている。そこでは対称性の要請により、面内磁化膜ではベリー曲率が恒等的に0となることが指摘されている。このため面直方向に磁化をもった磁性膜におけるスピン波の伝搬ダイナミクスの測定が必要となる。本研究では透過配置で現れる磁気光学効果の一つであるコットンムートン効果を利用したイメージングを実証した。垂直に磁化した磁性ガーネットを試料として用い、コットンムートン効果を測定する光学系を構築して、波長800nmのパルレーザーを試料に照射した際の時間分解磁気光学イメージングを行った。この結果、レーザーに励起された弾性波が磁気弾性結合を通じて励起する磁化ダイナミクスを観測することに成功した。磁化ダイナミクスの振幅は外部磁場に依存して変化し、これを磁気弾性結合を考慮したモデルを構築し説明した。 また、本研究に並行してベリー位相効果の増大が期待される弾性波とスピン波が結合した磁気弾性波の測定も進行している。弾性波とスピン波の混成に伴うコヒーレント振動現象の兆候を実験的に取得しており、次年度で系統的な測定を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究ではスピン波のバンド構造に由来するベリー位相効果を観測する測定系の構築が実現した。本研究は従来ファラデー効果を用いて実現されてきた超高速磁気光学イメージングをコットンムートン効果によって実行することにより、磁化歳差の面内成分を観測可能にしたものである。本成果は次年度以降のベリー位相効果観測に向けた重要な進展であるとともに、従来までの超高速磁気光学イメージング法における観測上の制約を解決する画期的な成果である。この観測手法の実現により、磁性体膜での磁化ダイナミクスを空間方向三成分についてすべて取得することが可能となった。また、従来はスピン波と弾性波の交点のみに着目して行われてきた磁気弾性波の研究を非共鳴な条件での議論に拡張し、磁気弾性結合を基礎とする研究領域に新たな視座を与えた。また並行する実験では磁気弾性結合ギャップの観測に近づく実験結果が得られつつあり、次年度につながる成果をも得ることができ、期待以上の進展を得ることができた。 本成果の達成にあたって特別研究員は、実験系の新たな構築、最適化から測定および理論的解析と理論モデルの定式化、論文化までをすべて一貫して遂行しており、独力で研究を遂行する研究遂行能力を獲得しつつあると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果により、スピン波のベリー位相効果を観測する観測系が構築された。今後はベリー曲率が大きくなると期待されるスピン波と弾性波の分散の交点でのダイナミクスについての研究を進め、ベリー位相効果の観測を目指す。スピン軌道相互作用を起源とする磁気弾性結合の下では、スピン波と弾性波は互いに混成し、磁気弾性波と呼ばれる混成状態をなす。スピン波と弾性波の交点近傍でもベリー曲率が大きくなることが先行する理論研究によって提示されているため、スピン波のベリー位相効果を観測する系として期待している。混成状態が形成されると、もともと交点であった準位は縮退が解けて二準位へと分裂する。これによりスピン波と弾性波の分散の交点にはギャップがあくことが期待される。混成状態が生成された直接的な証拠となるこのギャップの観測は期待されているが、実現には高い周波数分解能が必要であり、ブリルアン散乱を始めとする従来のスピン波観測手法では観測が困難であった。しかしながら、本課題で利用する超高速磁気光学イメージングでは実時間測定結果のフーリエ変換により周波数スペクトルを取得するため、周波数分解能が合計測定時間の逆数で決まる。したがって測定時間を延ばすことで周波数分解能を容易に高めることができる。 測定では面内方向に磁化した磁性絶縁体にスリットを用いて線形に整形したパルスレーザーを入射し、磁気弾性波を励起する。観測にはファラデー効果によるイメージング法を用いる。磁気弾性波を磁気光学効果によって観測すると、磁気弾性波のスピン波成分のみを観測することとなるため観測量である振幅は二つの混成状態のエネルギー差に比例した振動数で振動するはずである。次年度以降に本観測系での系統的な実験を実行し、ベリー位相効果の観測を目指す。
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