2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J21071
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
永田 亮 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 近赤外有機EL素子 / 励起子生成効率 / 一重項励起子開裂 / 近赤外発光材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
近赤外領域の光は、生体透過性・非侵襲性を有しており、生体センシング・イメージングへの応用を志向して、学術的・産業的に非常に大きな期待と注目を集めている。そして、現在の無機物を主体とした近赤外光源の用途を補完するべく、近赤外有機EL素子の研究開発が活発に進められているが、その外部量子効率は未だに低い値に留まっている。 そのため、本研究では、近赤外有機EL素子の高効率化を目標として、有機EL素子における新規発光機構の実現に取り組んできた。 昨年度において、本研究の最優先課題として掲げる、「一重項励起子開裂過程を利用した有機EL素子」を実現し、励起子生成効率の向上に成功した。しかしながら、電流励起において、電荷再結合時に三重項励起子が直接生成するため、光励起時と比較して、一重項励起子開裂過程を利用する優位性は小さい。 そこで本年度は、当初の計画を前倒しして、素子内部で最大限に一重項励起子開裂過程を利用するべく、三重項励起子を一重項励起子へと変換する過程である、逆項間交差過程の導入を検討した。実験では、発光強度の磁場依存性測定を、過渡発光をはじめとした高速分光測定と組み合わせることで、電荷再結合から逆項間交差、そして一重項励起子開裂へと至る、詳細な励起状態ダイナミクスの観察を進めた。 また、近赤外有機EL素子の外部量子効率の改善に向けて、近赤外発光材料自体のPL発光量子収率の向上という観点から、既存の分子設計に捉われない、新規の近赤外分子骨格の探索も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の計画を前倒しして、電流励起においても最大限に一重項励起子開裂過程を利用するために、逆項間交差過程の導入を検討した。実験では、薄膜および素子内部における詳細な励起状態ダイナミクスの観察を進めた。また、近赤外発光材料自体のPL発光量子収率の向上を目的として、既存の分子設計に捉われない、新規の近赤外分子骨格の探索も進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度まで、近赤外有機EL素子における、励起子生成効率の向上を志向して、一重項励起子開裂過程を利用した素子の提案・実証を進めてきた。しかしながら、近赤外有機EL素子における外部量子効率の改善に際して、発光分子自体のPL量子収率の向上も重要な課題である。 一般に、近赤外領域では、無輻射失活過程が強く促進されるため、PL量子収率が劇的に減少する。これは主に、低エネルギー領域に位置する励起状態の波動関数が、基底状態の波動関数と強く混合することに起因すると考えられている。また、発光分子やホスト分子における伸縮振動の低次倍音も、励起状態のエネルギー準位と良い一致を示すため、分子振動に基づく励起状態エネルギー吸収も、無輻射失活の原因となりうる。以上のことから、近赤外領域におけるPL量子収率の向上には、既存の分子設計に捉われない、新規分子骨格の探索をおこなう必要がある。 そのため、今後の研究では、励起子生成効率のさらなる向上と併せて、①量子化学計算に基づいた分子設計、②化合物合成、③溶液・薄膜の光学特性評価、④素子特性評価を通して、近赤外発光分子における各種失活過程の解明と、高効率近赤外有機EL素子の設計指針の確立を目指す。
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Research Products
(3 results)