2018 Fiscal Year Annual Research Report
励起状態でのダイナミクス制御に基づく高効率アップコンバージョン材料の開発
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18J21140
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
佐々木 陽一 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 三重項-三重項消滅 / フォトン・アップコンバージョン / 一重項-三重項遷移 / 近赤外光 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
三重項-三重項消滅に基づくフォトン・アップコンバージョン(TTA-UC)は、比較的弱い光で低いエネルギーの光子を高いエネルギーの光子に変換する方法論であり、近年注目を集めている。そして、TTA-UCを実用上重要な近赤外光から可視光への変換に展開していく上で、三重項増感剤の緩和過程におけるエネルギーロスの低減が求められていた。筆者らはこれまでにエネルギーロスの小さな増感過程を設計し、Os錯体の一重項-三重項遷移(S-T遷移)に基づく近赤外光から青色光への変換に成功した。しかし、Os錯体は三重項励起状態の寿命が従来の増感剤と比較して短く、UC効率が低下してしまうという問題があった。 そこで本年度は、長い三重項寿命を有するペリレンを共有結合で連結したOs錯体を新規に合成し、分子内エネルギー移動に基づく励起状態の長寿命化を試みた。その結果、合成した錯体は120倍も長寿命な三重項励起状態を示した。最終的にこの錯体を用いて、 TTA-UC における分子間のエネルギー移動効率を最大化させ、近赤外-青 TTA-UC の効率を向上させることに成功した。 次に、バイオロジー分野への応用を志向して、近赤外-青TTA-UCを示すヒドロゲルの作製に取り組んだ。非イオン性界面活性剤ミセル中に色素を取り込ませ、ゲル化させた後に近赤外光を照射したところ、青色のUC発光が確認された。通常ゲルのような柔らかい環境中では溶存酸素が励起状態の分子を容易に失活させてしまうが、申請者らはゲルの酸素耐性が加熱に伴い向上することを見出し、水中での安定的な近赤外-青TTA-UCを実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、長寿命な励起状態を示す色素をOs錯体に連結させ、S-T 遷移に基づく三重項増感剤の励起状態を長寿命化させることに成功した。そして、TTA-UCにおける分子間の三重項エネルギー移動効率の最大化に成功した。さらに、色素の集合構造を制御し、バイオロジー分野への応用に向けて重要なヒドロゲル中での安定的な光変換も達成した。これらの成果は、本研究の目的である近赤外-可視 TTA-UC の高効率化とその応用に向けた大きな進展といえる。したがって、当初の予定以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は上記の研究の中で、連結された色素間のエネルギー移動速度と連結構造の制御が三重項増感剤の長寿命化に重要であることに気が付いた。従って今後は、二つの色素間の連結構造を系統的に変化させた分子を合成し、超高速分光測定によって、連結された色素間の三重項エネルギー移動の速度の変化を調べる。量子化学計算の結果とも照らし合わせ、理想的なエネルギー移動速度と連結構造を明らかにする。以上より、三重項励起状態を長寿命化するための分子設計指針を確立する。また、TTA-UCをバイオロジー分野に応用するためには、低強度の光で駆動する UC 材料の開発が必須であり、増感剤の吸光度の向上が重要と考えられる。従って今後は、色素の近赤外域における吸光度の向上に向けた分子設計の検討も行っていく。さらに、色素の構造と細胞毒性の相関を調べ、生体親和性を合わせ持つUC材料の開発にも取り組む。
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Research Products
(7 results)