2019 Fiscal Year Annual Research Report
神経堤の特徴を呈する骨髄間葉系幹細胞塊を用いた歯胚再生の試み
Project/Area Number |
18J21198
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大堀(森田) 悠美 東北大学, 歯学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 間葉系幹細胞(MSC) / 三次元培養 / 振盪培養 / 神経堤 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨髄間葉系幹細胞(MSCs)は高い自己増殖能と多分化能を有しており,歯科医療における顎骨の再生療法の細胞源として注目されてきた.さらに頭頚部に存在する神経堤由来MSCsが高い骨再生能を有していることが報告されているが,MSCs採取量が限られており,大量のMSCsが必要となる大規模骨欠損症例に対する適応は困難となる.そこで中胚葉由来の細胞だと考えられてきた体幹部骨髄MSCsにも,一部神経堤由来の細胞が含有されていることが報告されており,大量のMSCsが採取できる四肢骨髄から神経堤由来MSCsを使用することは,発生学的に神経堤由来の歯(歯原性間葉)・顎骨の再生療法に有用であると考えられる.しかしながらMSCsは長期間の接着継代培養で多分化能や遺伝子発現が変化することが報告されており,安定した幹細胞の性質維持が良好な再生療法に重要である. 我々は一定条件下での浮遊振盪培養によって高い未分化性を維持するMSCs細胞塊を得ることに成功した.長期間の接着培養を行うと骨・軟骨・脂肪・神経への分化能が低下するが,浮遊振盪培養を用いてMSCs細胞塊を形成することにより,その分化能が回復することが示された.さらに遺伝子発現の定量解析において,MSCs細胞塊は神経堤マーカーやMSCマーカー,幹細胞マーカーの高い発現を認めた.さらに近年の報告で,細胞塊形成時に細胞間相互作用のみならず,細胞―細胞外基質間の相互作用も細胞の幹細胞性に影響を与えるとの報告があり,我々が形成したスフェアは細胞外基質マーカーの発現が有意に高いことが分かった.これらの結果より,我々の浮遊振盪培養法はMSCsの維持に理想的な細胞ニッチを形成し,従来の培養方法よりも安定した幹細胞の性質を有する神経堤様のMSCsを培養できることが示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度はMSCs細胞塊の性状解析を行った.まずMSCsの神経堤様の性質を解析するため,神経堤系細胞への分化実験を行ったところ,長期接着培養後の細胞では神経への分化は見られなかったが,浮遊振盪培養によってMSCs細胞塊を形成することで,神経への分化を認めた.さらに遺伝子発現の定量解析において,MSCs細胞塊は神経堤マーカーの高い発現を認めた.一昨年度の研究に加え,我々が作製したMSCs細胞塊が神経堤様の性質を有することを示唆するさらなるデータを追加することができた.さらに興味深いことにMSCs細胞塊は細胞外基質マーカーの高い発現を認め,3次元培養による密な細胞間あるいは細胞―細胞外基質間の相互作用がMSCsの安定した幹細胞の性質維持に寄与している可能性が示唆された. 我々はさらにMSCs細胞塊の骨再生能を検証するため,ラット頭蓋骨欠損モデルへの細胞移植を試みた.その結果,接着細胞MSCsを移植した群に対してMSCs細胞塊を移植した群の新生骨の骨密度は高い傾向にあったが,統計学的な有意差は認めなかった.しかしながら,MSCs細胞塊に対してラット頭蓋骨が薄く,移植した後細胞塊が流出した可能性も否定できず,実験系の妥当性が検討されなければならない.そこで今後はより細胞塊の保定が確実な別の実験系を行い,細胞塊の骨再生能を検証していく予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は前年度の研究結果をふまえ,以下の研究を計画している. ①MSCs細胞塊の免疫学的特性の検証:過去の報告より,MSCsの骨再生能には,MSCsの免疫調整機能が影響していると報告されている.さらにMSCsは細胞塊に形成することで,その免疫学的特性が変化するとの報告もある.我々は予備実験でMSCs細胞塊の免疫マーカーを解析したところ,高い抗炎症マーカーと低い炎症マーカーの発現が分かり,これらの発現がMSCsの骨再生能にも影響を与えると考えている.そこでMSCs細胞塊の免疫関連タンパクを解析し,その免疫学的特性を解析していく. ②MSCs細胞塊の骨再生能の検証:昨年度はMSCs細胞塊と接着培養MSCsをラット頭蓋冠欠損モデルに移植することにより,それぞれの骨再生能の検証を試みたが,この実験系の妥当性が問題となった.そこで今年度はより細胞塊の保定が確実なラット大腿骨欠損モデルへの細胞移植実験を行い,細胞塊の骨再生能を検証していく. ③MSCs細胞塊の歯原性間葉としての能力の検証:歯胚は歯原性間葉と歯原性上皮細胞が相互に作用することにより,歯へと分化していく.そこで得られた神経堤様MSCs細胞塊を歯原性間葉の細胞ソースとして応用し,器官原器法に準じて歯原性上皮細胞との結合を行い,歯胚構造が再生可能かを検証する.さらに我々の研究グループではiPS細胞から歯原性上皮細胞への誘導を同時に研究しており,最終的にはiPS細胞と我々の神経堤様MSCs細胞塊を結合し,歯胚再生が可能か検証する.この方法が成功すれば,歯原性上皮及び歯原性間葉の両組織が生体由来細胞から作成可能となったと証明できる.
|