2018 Fiscal Year Annual Research Report
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18J21231
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
安田 健人 首都大学東京, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | マイクロマシン / 複雑流体 / 生体膜 / 粘弾性体 / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度研究課題に関して実施してきた以下の2つの研究について報告する。 (1)複雑流体中のマイクロマシンの遊泳:マイクロマシンのダイナミクスを正しく理解するためには、環境の影響を考慮する必要がある。そこで私は複雑な環境下におけるマイクロマシンの遊泳の研究を行ってきた。まず、私は生体膜中の三つ玉スイマーの遊泳について研究を行った。二次元流体としての生体膜は遮蔽長と呼ばれる長さスケールを持っていることが知られている。そのため、この問題はマイクロマシンに対する、環境の構造の影響を調べるのに対応している。遊泳速度を理論的に計算したところ、三つ玉スイマー自身の大きさと、環境がもつ長さスケールの間の相対的な大小関係に応じて、遊泳速度のサイズ依存性が大きく変わることがわかった。この成果は論文として発表し、PRE誌に掲載された。次に構造を持った粘弾性媒質中のマイクロマシンの遊泳について調べた。この研究は時間および長さスケールの両方を持った複雑な媒質を扱うことを目指した。三つ玉スイマーの運動方程式を解くことで、遊泳速度と剛体球の抵抗係数を結びつける一般的な関係式を導出した。この研究結果は、複雑流体中のバクテリアの運動や、細胞の鞭毛運動、繊毛の波打ち運動などを理解するための重要な視点になることが期待される。この結果はEPL誌に論文として発表し、複数の研究会で発表した。 (2)2つのマイクロマシンの流体相互作用:マイクロマシンが実際に機能を果たすときには単一のマイクロマシンだけでなく複数のマイクロマシンで共同して機能する場合も多い。そこで我々は2つの三つ玉スイマーが流体相互作用によってどのように共同運動するかを調べた。その結果2つの三つ玉スイマーの持つ位相差によって2つのスイマーが近づくか離れていくかが変わってくることがわかった。この結果は論文誌に投稿し、JPSJ誌に掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
課題1に関しては当初の予定より大幅に進捗し、2つの論文の発表まで至った[Y. Ota, Y. Hosaka, K. Yasuda, S. Komura, Three-disk microswimmer in a supported fluid membrane, Phys. Rev. E 97, 052612 (2018)., K. Yasuda, R. Okamoto, S. Komura, A three-sphere microswimmer in a structured fluid, EPL 123, 34002 (2018).]。そのため、課題1で得られた成果はソフトマター中のマイクロマシンの遊泳の問題を大きく進展させた。この課題によって得られた遊泳速度の関係式は多くの媒質モデルに適用可能であり、今後様々な媒質モデル中でのマイクロマシンのダイナミクスの知見が深まることが期待される。また、論文発表と同時にプレスリリースも行い、対外的にもこの課題の成果を発信した。また、複数の学会および研究会で発表を行い、専門分野の近い研究者と情報交換した。 課題2は当初の計画をより発展させた問題設定となっており、この課題も論文が掲載されることが決定している[M. Kuroda, K. Yasuda, S. Komura, Hydrodynamic interaction between two elastic microswimmers, to be published in JPSJ, arXiv:1901.08854.]。そのため、当初の計画を超えて進捗したと捉えている。本課題で得られた知見から、更に多数のマイクロマシンの共同的な振る舞いの理解が進むと期待される。この課題についても順調に結果を得ることができたため、論文以外にも複数の研究会で発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
課題(1)に対しては、粘弾性体中のマイクロマシンの遊泳機構の物理的な解釈を深めるために、流体場解析を行う。昨年度の研究結果から、粘弾性体中ではマイクロマシンは時間反転対称な変形をもちいて遊泳できることが示された。しかし、マイクロマシンが遊泳可能であるため、系全体は時間の対称性が破れていることが示唆されている。そのため、私は粘弾性体の弾性成分が時間反転対称性を破ることに寄与していると考え、それを確かめるべく粘弾性体中のマイクロマシンが誘起する流体場の解析を行うことを計画している。これにより、粘弾性体の変形とマイクロマシンの変形の2つの要素によって系全体の時間反転対称性がどのように影響を受けるか確かめることができる。 また、当初予定していた課題である、二成分流体中のマイクロ粒子の周期外力に対する動的応答を調べるために、モデルの構築や関係式の確認から始める。まず、二成分流体の自由エネルギーを流体成分とマイクロ粒子との親和性を考慮して決定する。また、ダイナミクスを記述するモデルには「モデルH」と呼ばれる粘性流体のストークス方程式と相分離の結合を考慮したモデルを用いる。また、可能であれば二成分流体だけではなく液晶など他のソフトマター中のマイクロ粒子の振る舞いを調べる。必要があれば計上している費用を用いて、国内の共同研究者と議論する。 さらに、新規の課題として熱スイマーの確率流解析に取り組む。先行研究から異なる温度を持った3つの球を2つのバネで結合した熱スイマーモデルが粘性流体中で熱ゆらぎのみから一方向へ遊泳できることが示されていた。そこでこの熱スイマーの遊泳機構について詳細に調べるために、バネの変位に関する確率分布関数を導出し、その確率流を解析することを計画している。まとまった結果が出れば、予算を用いて学会等で発表を行う。
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Research Products
(13 results)