2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J21231
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
安田 健人 首都大学東京, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | マイクロマシン / 遊泳 / 確率流 / 状態サイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
生体中で機能する酵素やモータープロテインはマイクロマシンと呼ばれ統一的な理解が求められている。しかし、このようなマイクロマシンは必ず非平衡環境下で機能を発現するため、非平衡統計力学の立場で問題を捉える必要がある。今年度、私はマイクロマシンを捉えるための新しい視点を提案することに重きをおいて以下の二つの研究を行ってきた。 (1)熱スイマーと確率流 これまでに、マイクロマシンのモデルとして3つの玉を二つのバネで直線上に結合し、熱ゆらぎを与えるモデルを提案してきた。その結果、粘性流体中に置かれたマイクロマシンを考え、3つの玉それぞれに異なる温度を与えたとき、マイクロマシンが正味に一方向へ遊泳することが示された。これを熱スイマーと呼ぶこととし、内部構造の確率分布解析を行った。その結果、確率分布は実行的な温度を用いたボルツマン分布で表現できることがわかった。さらに、確率流束に注目して解析すると、すべての温度が等しい熱平衡状態では確率流束はゼロになるが、温度が異なる非平衡状態では正味の確率流束が見られることがわかった。 (2)生体ナノマシンの状態サイクルモデル over dampedな系での生体ナノマシンでは状態空間中のサイクルが重要であることが指摘されてきた。そこで、ナノマシンのシンプルなモデルを作成し、状態サイクルと化学反応の関係性を調べた。変数として化学反応の進行を記述する反応座標、ナノマシンの状態を記述する状態変数を考える。次に化学反応を記述するポテンシャルとして、傾いた周期ポテンシャルを考える。さらに、化学反応とナノマシンの状態のカップリングエネルギーを考えた。また、ダイナミクスはオンサガーの現象論的方程式で記述されるとした。このモデルのランジュバンシミュレーションを行い、状態サイクロンを計算した。その結果、活性化エネルギーが大きくなると状態サイクロンが小さくなる事がわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マイクロマシンの遊泳と拡散を理解するために「熱スイマーの確率流解析」と「状態サイクル解析」の研究を行った。「熱スイマーの確率流解析」では熱スイマーの遊泳速度と確率流束の関係式を導き、確率的なマイクロマシンでの帆立貝定理の表現の一つとして提案した。これはマイクロマシンの駆動原理に大きく迫る成果と言える。「状態サイクル解析」ではマイクロマシンの新しい捉え方として、状態サイクル量を提案し、それを捉えられるモデルを提案している。この試みによってこれまでと異なるマイクロマシンの理解が広がり、新しい研究の方向性が示されている。今後、本格的な解析を進めていくが、現時点にてマイクロマシンの理解に大きく進捗があったと言える。 上記に示してきた成果について、論文発表や学会発表を行った。具体的には、熱スイマーの状態サイクルに関して[I. Sou, Y. Hosaka, K. Yasuda, and S. Komura, Phys. Rev. E 100, 022607 (10pp) (2019)]を発表した。状態サイクルに関してはActive Matter Workshop 2020等で口頭発表した。また、アクティブマター研究者が多く参加した国際ワークショップSoft Matter Out of Equilibrium: from driven to active systemsに参加し、本課題の成果について発表を行った。また、マイクロマシンの相互作用に関して[M. Kuroda, K. Yasuda, and S. Komura, J. Phys. Soc. Jpn. 88, 054804 (6pp) (2019).]が論文誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究をすすめるにあたり、以下の課題を設定し、マイクロマシンの問題に取り組んでいく。 課題1:化学反応が誘起する形状ゆらぎ 多くのマイクロマシンの非平衡の要因は化学反応によるものである。そこで、私はエネルギー論に基づいた、化学反応が誘起する非平衡な形状ゆらぎのモデルを提案することを目的とした。具体的にはTilted periodic ポテンシャルを用いたモデルを提案する。このポテンシャルは一定の傾きを印加していることによって非平衡定常状態を維持することができる。加えて、周期的な障壁があることによって、決定論的なダイナミクスでは時間発展が得られないため、必ずノイズを印加しなければならなう。このようなポテンシャルと変形の問題を結合させることによって、非平衡形状ゆらぎを誘起する新規モデルを提案する。この問題は自由エネルギーによってモデルが規定されているため、エネルギー論を議論する際に非常に有用なモデルとなる。 課題2:非平衡形状ゆらぎによって遊泳する球状マイクロマシン 一般的な形状および変形を扱うことにより、マイクロマシンをより一般的に議論する。そのため、球状の変形物体を考えこの形状が揺らぎによって変形することを考える。そして表面形状が非平衡ゆらぎによって揺らいでいることを仮定し、スイマーの遊泳挙動を研究する。また、直線的な推進だけでなく回転などの三次元運動が得られるか調べる。このとき、表面の変形が微小であることを利用することで具体的な解析表現を得る。また、このとき球状ベシクルの非平衡ゆらぎの研究で得た知見を活用する。また、可能であれば、二次元シート、一次元ワイヤーなどの物体の変形も検討する。さらに、対称性の低い複雑な形状を持った物体の遊泳も検討する。このとき変形が微小であれば解析的に取り扱えると期待できる。
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