2019 Fiscal Year Annual Research Report
分子動力学計算に基づくペロブスカイト太陽電池における有機カチオンの機能の解明
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18J21325
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
浦谷 浩輝 早稲田大学, 先進理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ペロブスカイト太陽電池 / DFTB / 非断熱 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペロブスカイト太陽電池の材料である鉛ハライドペロブスカイト(LHP)における光照射直後の振舞いは多くの物理・化学者の興味の対象となっている。ミクロな観点からこれを理解する方法として、計算機によるシミュレーションは強力な手段である。当該年度、本研究では、低コストな量子化学計算手法である密度汎関数強束縛(DFTB)法と、光励起状態に対応したダイナミクスシミュレーション手法である非断熱分子動力学法を組み合わせた手法をプログラムとして実装し、これをLHPに適用した。 材料への光照射直後における重要な物理的過程としては、電流のもととなる正電荷と負電荷が生じる励起子解離、生じた正電荷と負電荷が安定な状態へと移るホットキャリア緩和、および電荷の生成に伴い周囲が構造的に変形するポーラロン形成がある。シミュレーションの結果、これらの過程は順番に起こるわけではなく、似たような時間スケールを持って同時進行的に起こることがわかった。また、これらは相互に連動した過程であることがわかり、本材料の光励起状態の計算化学的取扱に際して電子と核のダイナミクスの相互依存性を取り入れることの重要性が示唆された。 さらに、より大規模な系のダイナミクスを取り扱えるようにするため、系を空間的に分割して計算する分割統治法を取り入れることで上記シミュレーション手法を拡張した。ベンチマーク計算の結果、本手法は従来法と遜色ない精度を有しながら計算コストが大幅に低く、なおかつ系のサイズを大きくしてもコストが急激に増大しないことが示された。本手法はLHPに限らず様々な系における大規模非断熱ダイナミクスシミュレーションに適用可能であることが示唆される。今後、さらなる拡張および応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本年度は基底状態計算によるLHP中の電荷キャリア(ポーラロン)の取扱いに取り組む予定であった。具体的には、分割統治型密度汎関数強束縛法に基づく分子動力学シミュレーションにより、キャリア存在下におけるLHPの構造ダイナミクスを追跡し、特に有機カチオンの配向変化に注目してキャリアの特性との関係を議論する計画であった。実際には、当該内容について論文化まで完了させたことに加え、当初の計画になかった励起状態ダイナミクスシミュレーションまで実施し、新たな結果を得た。当初注目していたターゲットであるポーラロン形成のみならず、励起子解離やホットキャリア緩和まで含めて光励起後の過程を包括的に取り扱うことにより、上記の諸過程が相互に連動しながら進行している描像を捉えた。 さらに、LHPにおける励起状態ダイナミクスシミュレーションを目的とした非断熱ダイナミクス手法実装から派生する形で、分割統治法と組み合わせた新規な大規模非断熱ダイナミクス手法を開発・実装した。これにより、個別具体的な系(LHP)を対象とした研究の枠にとどまらず、より一般的な理論・方法論の開発へと展開することができた。本手法については今後の改良および応用に関する計画も具体的なものとなっている。 以上より、当初計画した内容については十分達成できており、追加的な成果および今後の展望も得られていることから、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、開発した分割統治型非断熱ダイナミクス計算手法をLHPに適用するとともに、さらに広汎な対象への応用を目指した改良を行う。 前者については、低次元LHP材料に注目した解析を行う。LHPのナノシート(2次元系)およびナノクラスター(0次元系)は通常のバルク固体LHP(3次元系)と異なる性質を示すことから、基礎・応用両面から興味の対象となっている。こうした系は、中心であるLHP材料とそれを覆うリガンド(配位子)とで構成されることが多いため、系のサイズが大きく、量子化学計算で全体を取り扱うことは容易ではない。上記手法により、光励起状態ダイナミクスに直接関与する部分と間接的な寄与しかしない部分に分割した計算が可能となり、こうした大規模系においても現実的な計算コストで光励起状態ダイナミクスシミュレーションを実施可能と期待される。 さらに、後者については、励起状態間だけでなく励起状態と基底状態との間のポテンシャルエネルギー面交差をよく記述できることが知られるspin-flip型方法論と本手法を組み合わせる。これにより、そのような交差を含む非断熱ダイナミクスへの応用も可能になると期待される。ポテンシャルエネルギー面交差を経由して励起状態が基底状態に遷移する過程は、例えば有機発光ダイオードにおける発光効率ロスや、生体における光受容タンパクの機能発現等、幅広い系・現象において重要な因子となっている。本研究により、こうしたターゲットにおいても大規模非断熱ダイナミクスシミュレーションを実施可能になると期待される。
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Research Products
(6 results)