2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18J21329
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三崎 航 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 超流動 / ジョセフソン接合 / 非相反効果 / 超伝導渦 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に量子モンテカルロ計算により明らかにしたガリレイ不変性の破れに伴う超流動の抑制現象について、さらに散逸の伴う相互作用のあるボゾン系を第二量子化で定式化してボゴリューボフ近似によって超流動密度を計算し、この場合についても超流動が抑制されることを示した。第一量子化での数値計算と合わせて、散逸によりユニバーサルに超流動が抑制されることを論文にまとめて発表した。超伝導中の絶対零度で低エネルギーの有効自由度が渦(ボゾン)のみになる場合であっても、渦の中の束縛状態により散逸が生じ、必ずしも渦による超流動が起きないことを明らかにしたため、低温での超伝導中の輸送現象の実験に重要な結果である。 また、新たな研究として非相反ジョセフソン効果について理論的に調べた。近年、反転対称性またはミラー対称性の破れに伴って、右側に高い電圧をかけたときに流れる電流量と左側に高い電圧をかけたときに流れる電流量が異なるという非相反輸送現象の研究が盛んに行われている。マクロスコピックに反転対称性が破れている代表例としてp-n接合があり、I-V曲線が原点について点対称でなく正と負のVで全く異なる性質を示す。 超伝導体からなる接合系としてはジョセフソン接合が知られており、この接合系において左右の超伝導体が異なる場合についても反転対称性が破れており非相反効果が見込まれるが、このような効果は調べられていない。我々は左右の超伝導体の電荷応答特性が異なるときに現れる、反転対称性を破る量子キャパシタンスに着目し、ジョセフソン接合におけるI-V曲線をキャパシタンスの大きい接合と小さい接合両方について数値計算することで、どちらの場合についてもI-V曲線に非相反性が現れることを明らかにした。さらに、この非相反性が倍周波測定によって実験的に観測可能であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
実験技術の進展により、結晶性の高い二次元超伝導薄膜の実験が近年盛んに行われており、特に磁場の存在下において極低温まで非常に小さい抵抗値が残る、failed superconductorと呼ばれる現象が発見されている。磁場の存在下の超伝導体で重要な自由度は磁束であり、この磁束が運動することで抵抗が発生するメカニズムが知られている。 我々は磁場によって磁束が資料内部に侵入し、これらが運動することで微小な抵抗値が生じているシナリオを考案した。このシナリオの理論的な困難として、磁束がボゾンであることから低温で磁束の超流動が起き、超伝導が破壊されてしまうというものがあった。ここで磁束のコアにgaplessの励起が存在し、そこへ運動量が逃げていくことができる、つまり磁束が散逸を感じることから、極低温まで磁束は超流動を起こさないのではないかというのが我々の着眼点である。 この超流動の散逸による抑制を、Feynmanの議論の拡張による物理的考察、第一量子化での量子モンテカルロ数値計算、第二量子化での摂動計算の三本柱によって確固なものとし、ガリレイ不変性の破れと超流動の抑制との関係なども明らかにした。当初の実験結果を理論的に解釈するという目標のみでなく、超流動の抑制の定量的議論や第一量子化の多体系において散逸の効果を理論的に取り扱ったことなど理論的にも興味深い結果が得られ、計画以上に進展しているといえる。 また、ジョセフソン接合において、反転対称性を破った量子キャパシタンスによりI-V曲線が非相反性を示すことだけでなく、理論的に非相反Bloch振動や非相反Zenerトンネリングが現れること、電圧の平均値のみならず電圧のゆらぎなども非相反性を示すことなど反転対称性のないジョセフソン接合における非相反現象について網羅的に議論したことも、当初の予想より大幅な進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
ジョセフソン接合における非相反現象についてはすでに明らかにしたが、これに対して常伝導状態のトンネル接合を考えた時に非相反現象がどのように現れるかを、左右の常伝導体の電子の数の差についての有効作用を導出してそのダイナミクスを調べることによって明らかにする。この非相反性とジョセフソン接合における非相反性を比較することによって、超伝導現象が非相反性に本質的な役割を果たしているかを明らかにすることを研究の目的とする。 超伝導ジョセフソン接合の有効作用についてはAmbegaokarらの先行研究があり、バルクの左右の超伝導の電子についてトンネル接合による飛び移りの作用と超伝導相における電子の作用を足し合わせた作用から出発し、ハバードストラトノビッチ変換によって超伝導位相の有効作用に変換することでミクロスコピックにジョセフソン接合の位相自由度のダイナミクスを表す有効作用を導出している。本研究では、この導出を参考にして、まずバルクが超伝導ではなく常伝導状態になっている場合について電子の左右の電荷の差をコレクティブな座標としてハバードストラトノビッチ変換を行い、有効作用を導く。この際、左右の常伝導体の荷電応答特性(分極テンソル)が異なることを考慮に入れることで、反転対称性の破れの効果を取り入れる。電荷の差についての有効作用が導ければ、電圧バイアスをかけた際のそのダイナミクスを調べることでI-V特性も分かることになり、特に非相反性についても定量的に計算することができる。このI-V特性における非相反性と既に行ったジョセフソン接合のI-V特性の非相反性の計算とを比較し、常伝導接合と超伝導接合で定性的/定量的にどのような違いがあるかを調べる。
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Research Products
(2 results)