2019 Fiscal Year Annual Research Report
Patient-Specific Parameter Estimation and Uncertainty Analysis in the Simulation of Cardiovascular System for Predictive Medicine
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18J21374
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
尹 彰永 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 血流シミュレーション / 低次元モデル / 不確かさ解析 / 代理モデル / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
患者個別の血流解析では,血管形状や末梢血管抵抗などのモデルパラメータが患者の医用データに基づいて設定されるが,これらは解像度の限界,測定誤差などに起因する不確かさを含む.このような状況下で予測結果の信頼性を評価するには,異なる条件で解析を繰り返し,予測結果の統計を得るのが有効である.しかし,膨大な計算量を要することから,時間・計算資源の限られた医療現場での実施が難しいという問題点がある.そこで本研究では,深層学習により,血流解析と同等な予測をPCにて高速で行える代理モデルの作成を試みる. 2019年度は,(1)教師データの作成に適した解析モデルの選定,(2)教師データの作成と深層学習を行った.まず(1)では,従来83本の動脈としていた1次元モデルの解析領域を打ち切る形でモデルを簡略化し,そのときの精度と計算コストのトレードオフ関係を調査した.簡略化モデルの計算速度は,簡略化とともに線形に向上し,最大2.1倍に達した.一方,簡略化による血流量・血圧の誤差は,血管形状の個人差や狭窄の度合いによって大きく異なることが確認された.この点は,教師データの質の担保という観点からすると望ましくないため,教師データの作成には詳細な83本モデルを採用することとした. 次に(2)では,症例データの分析と文献調査を通じて,血管の直径,長さなどの入力パラメータが生理学・解剖学的にとりうる範囲を定めた.その後,定めた範囲内で入力条件をランダムに選び,その条件に対する各血管の流量,血圧を血流解析により求めた.このように作成した合計20万ケースの入出力ペアの教師データを用い,深層学習を実施した.学習済み代理モデルは,血流解析と比較して平均3%の誤差で流量,血圧を予測できた.また,1ケースの予測には2.5ミリ秒を要し,予測結果の統計量を得るための10万回ほどのモンテカルロ解析を,数分で実施可能と見積もられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では,昨年度に実装した非侵入型多項式カオス法を用いて,与えられた入力に対し血流解析と同等な出力を予測する代理モデルを作成する予定であった.しかし,入力パラメータが60個に至ることから,約10万個の膨大なサンプルデータを用いても,出力を最大3次の多項式でしか表せないことが判明した.それに加えて,対象としている入力パラメータは血管径や血管長など,大きな個人差を持つものであるため,その範囲が広く,パラメータ空間内で解が不連続性や複数の極値を持つ可能性があると予想された.したがって,比較的少ない数のデータで複雑な形の解に対しモデルフィッティングできるという強みを持つ深層学習を用い,代理モデルを作成することとした. 手法の変更に伴い,2019年度の計画を修正し,(1)教師データの作成に適した解析モデルの選定,(2)教師データの作成と深層学習,を目標として研究を推進した.(1)については,循環器系の1次元・0次元モデルの簡略化に伴う精度と計算コストのトレードオフを調査し,教師データの作成においては,計算コストよりも精度を優先した詳細なモデルを用いるべきという結論を得た.また,(2)については,血流解析により入力・出力ペアの教師データを作成し,深層学習を行った結果,血流解析と比較して平均3%の誤差,216,000倍の計算速度で脳動脈の血流量,血圧を予測する代理モデルの作成に成功した. 以上のことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2020年度は,まず,本年度に作成した代理モデルの精度検証を行う.その後,代理モデルを活用し,データ分析という観点から脳循環の特徴を考察する.また,本研究の最終目標である,頸動脈狭窄手術後の過灌流症候群の発症リスク予測を行い,手法の有効性を確認する.以下,それぞれについて説明する. 本研究では,深層学習を用いて代理モデルを作成しているが,深層学習の結果は,ニューラルネットワークの層数とノード数,学習率,バッチサイズなどのハイパーパラメータによって大きく変化する.しかし,それらの最適値は問題依存であるため,試行錯誤を重ねて探索する必要がある.そこで次年度は,ハイパーパラメータの値の候補を設け,そのすべての組み合わせを試す手法であるグリッドサーチを行い,最も高い精度を与えるハイパーパラメータを探索する.また,教師データの数が精度に及ぼす影響も調査する.最終的には,実患者条件において代理モデルと血流解析とでの予測値を比較し,代理モデルの予測精度と汎用性を検証する予定である. 代理モデルを活用すると,さまざまな生理的条件(血管形状,末梢血管抵抗など)における脳循環(脳動脈それぞれでの血流量,血圧)を迅速に予測することができる.よって,これまではできなかったような,膨大なデータの生成・分析による脳循環の特徴の考察が可能となる.例えば,出力に対する入力の影響を見るためのグローバル感度解析や,異なる血管内の血流間の相関分析を行っていく予定である. 最後に,内頸動脈狭窄症の7例を対象とし,医用データの不確かさを考慮した手術後予測を行う.そのための課題である,CT,頸動脈エコー,PC-MRI,SPECT,4D-Flowといったさまざまな医用データに含まれる不確かさの見積もりを重点的に行う.また,予測結果を実際の手術後の医用データと比較することで,検証まで行う予定である.
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[Presentation] 当科における内頸動脈狭窄に対する治療戦略:コンピューターシミュレーションモデルを用いた脳血流予備能の検討2019
Author(s)
高山利夫, 松浦壮平, ユンチャンヨン, 大島まり, 花田和正, 大片慎也, 佐野允哉, 宮原 和洋, 福原菜摘, 伊佐治寿彦, 赤井隆文, 保科克行
Organizer
第60回日本脈管学会総会
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