2019 Fiscal Year Annual Research Report
TMX4を中心とする小胞体膜近傍での還元ネットワークの解明
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18J21570
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
堤 智香 京都産業大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 小胞体 / レドックス / グルタチオン |
Outline of Annual Research Achievements |
小胞体は膜によってサイトゾルと隔てられ、内腔は酸化的な環境が維持される。この酸化的な環境は酸化的なグルタチオン比によって構築されており、サイトゾルでは酸化型(GSSG):還元型(GSH)=1:100、小胞体ではGSSG:GSH=1:1~3で保たれる。また、小胞体は分泌タンパク質フォールディングの場でもあり、細胞で合成される全タンパク質のうちおよそ3分の1ものタンパク質が挿入、合成される。小胞体の酸化的な環境は、タンパク質のジスルフィド結合形成を触媒する酸化酵素が機能するために、有利な環境である。このように酸化的な環境で、酸化反応の場として捉えられてきた小胞体だが、以前我々の研究室で小胞体において初めての還元酵素が同定された。詳細な解析によって還元酵素が不良タンパク質の分解やカルシウムポンプの制御を介して、小胞体恒常性維持に貢献することが明らかとなった。一様に酸化的であると考えられてきた小胞体だが、実際は酸化反応と還元反応が入り組んでおり、複雑なレドックス環境であることが予想できる。しかし、小胞体のレドックス環境を構築するグルタチオンの合成はサイトゾルで行われており、小胞体へどのように供給されるかは解明に至っていない。小胞体へのグルタチオン供給経路を明らかにすることは、小胞体レドックス環境の構築機構を理解する上で必要不可欠である。その一方、大腸菌ペリプラズム領域へは、内膜タンパク質CydD/C複合体を介して、膜を越えてGSHが供給されることが知られている。CydD/C複合体によって供給されたGSHは、ペリプラズム領域でのタンパク質のフォールディングや成熟に関与することが報告されている。そこで、小胞体にも同様にCydD/CのようなGSH輸送体が存在するのではないかと推測し、小胞体におけるGSH輸送体の同定を目的として研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小胞体は膜によってサイトゾルと隔てられ、酸化的な環境が維持されており、この酸化的な環境は酸化型グルタチオンと還元型グルタチオン(GSH)の比が酸化的であるためとされる。小胞体レドックス環境を酸化的に保つために必要不可欠とされるグルタチオンだが、小胞体へどのように供給されるかは明らかにされていない。小胞体膜上にグルタチオン輸送体が存在すると考え、小胞体膜局在型レドックスタンパク質TMXファミリータンパク質に着目した。TMXファミリータンパク質は1~5まで同定されており、それぞれの詳細な機能は不明な点が多く残されている。レドックスセンサータンパク質roGFPを用いた実験系により、TMX4過剰発現細胞において小胞体が著しく還元的に変化し、TMX4が小胞体へのGSH供給に関与することが示唆された。TMX4が小胞体へGSH輸送を促進するかどうかを検証するために、培養細胞からミクロソームを分画によって回収し、ミクロソームに放射性ラベルされたGSHが取り込まれるかを計測した結果、野生型でGSH取り込みが検出された。一方で、TMX4欠損条件では、ミクロソームへのGSH取り込みが減弱した。さらに、培養細胞内でもTMX4がGSH輸送に寄与するかどうかを調べるために、GSH合成酵素阻害剤BSOを処理し、roGFPで小胞体のレドックス状態を観察した。TMX4過剰発現細胞で観察された小胞体の還元的な変化が、BSO処理によって顕著に抑制されたことから、TMX4を介したサイトゾルから小胞体へのグルタチオン輸送の可能性を支持する結果を得ることができた。これらの成果は、TMX4を介してGSHが小胞体へ供給されていることを強く示唆する。さらに、予備的な実験結果からカルシウム濃度の変化に応じてTMX4の構造が変化することや、GSH輸送活性が変化することを見出しつつあるため、今後さらに詳細なメカニズム解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果より、TMX4過剰発現細胞において小胞体が著しく還元的に変化することを観察し、TMX4が小胞体へGSHを取り込んでいることを示唆する結果を得た。さらに、培養細胞からミクロソームを分画によって回収し、ミクロソームに放射性ラベルされたGSHが取り込まれるかを計測した結果、野生型でGSH取り込みが検出された一方、TMX4欠損条件でその取り込みが抑制されることを明らかにした。以上のことから、TMX4が小胞体へのGSH輸送に深く関与することを解明しつつある。しかし、TMX4を介したGSH輸送の詳細なメカニズムや、GSHを選択的に小胞体へ輸送しているのかについては解明に至っていない。 そこでまず、TMX4がグルタチオン輸送の実行因子か制御因子かどうかを明らかにするために、TMX4を含むプロテオリポソームを作製しTMX4単独でGSH輸送が可能かどうかを調べる。また、これまでの予備的な実験結果から、1型膜タンパク質であるTMX4が高分子量複合体を形成することが分かっており、この複合体がカルシウム濃度の変化に応じて構造を変化させることや、TMX4のGSH輸送活性がカルシウム濃度によって阻害されることから、TMX4の複合体形成がGSH輸送に重要であると推測している。TMX4とカルシウムイオンの親和性や複合体がどのように構造変化をするかを調べることで、カルシウムイオンによるTMX4の活性制御メカニズムを明らかにする。また、TMX4を中心とする高分子量複合体に、どのような因子が含まれるかは未解明であり、質量分析によって相互作用因子を探索することで、TMX4を介したGSH輸送の補因子または制御因子を同定し、GSH供給メカニズムを解明する。最終的にはこれらの研究成果をまとめて論文投稿を目指す。
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