2018 Fiscal Year Annual Research Report
トレードオフが表現型にもたらす進化的制約の解明:パレート理論の実証と適用
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18J21859
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三上 智之 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | パレート理論 / トレードオフ / 表現型進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、これまでに開発を進めていた「モビールシャッフリング法」を改良した手法である「モビールフリッピング法」の開発を行った。 「モビールシャッフリング法」は、系統関係を考慮して形質のランダマイズを行うことで、複数の種を比較したデータセットでのパレート理論の検証を可能にする統計手法であった。この手法は、ランダマイズの前後で、姉妹群間の表現型空間上でのユークリッド距離を保つことにより、系統的制約を保ったランダマイズを可能とする。これまでの解析により、この手法は系統的制約を保つことが示唆されている。 一方で、「モビールシャッフリング法」はユークリッド距離を用いていることから、形質ごとに系統的制約の強さが異なった場合に、ランダマイズにより系統的制約の形質間の不均一性が保たれないことが指摘されていた。このため、モビールシャッフリング法は、形質間で系統的制約が不均一であった場合の解析には適さないと考えられる。この問題を解決する手法として、本年度に開発したのが「モビールフリッピング法」である。この手法は、「モビールシャッフリング法」の一次元版と考えることができ、すなわち形質ごとに別々に「モビールシャッフリング法」を行うことに相当する。この操作により、すべての形質において、すべての姉妹群のペアで、表現型空間上でのユークリッド距離ではなく、それぞれの形質値の差分の絶対値を保ちながらランダマイズが行われる。このため、この手法は形質間で系統的制約が不均一であった場合にも十分対応が可能であり、「モビールシャッフリング法」より優れた手法であると考えられる。現在、これらの成果を論文として発表するための準備をおこなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は、平成29年度までに開発を行った「モビールシャッフリング法」という統計手法について、研究成果を論文として出版することを計画していた。しかし、論文化の準備を進めている段階で、「モビールシャッフリング法」の問題点を解決する新手法である「モビールフリッピング法」を発案した。そこで、当初の計画を変更し、「モビールシャッフリング法」ではなく、「モビールフリッピング法」の論文を出版することを目標として、新手法の実装や、新手法を使った新たな解析など、新手法の論文化に向けた準備を行った。 これに伴い、平成30年度中に行う予定であった、パレート理論の実証のためのデータ収集は、当初の予定より遅れることとなった。一方で、新たな手法の開発という面で研究の進捗は大きかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には、「モビールフリッピング法」の論文出版と、ウミユリ類でのパレート理論の実証を行う予定である。 「モビールフリッピング法」については、既にこの手法の評価実験や、この手法を用いた先行研究の再解析などを終え、論文化に向けて準備中である。 ウミユリ類でのパレート理論の実証に関しては、これまでに資料収集を行ってきた結果、文献の情報のみでは研究に適したデータが十分に得られない可能性が高いことが判明した。このため、今後は文献よりも標本をもとに表現型の計測を進める方針で研究を進める。現在、標本測定システムを作成中であり、今後はこのシステムを使い、博物館調査などで表現型計測を行う予定である。これに並行して、パレート最適なウミユリを予測する理論モデルの開発も行う。 理論モデルの開発と表現型の計測が完了し次第、理論予測された表現型と実際に測定された表現型が一致するかを「モビールフリッピング法」を用いて検証することで、ウミユリ類でのパレート理論の検証を行うことを計画している。
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Research Products
(1 results)