2019 Fiscal Year Annual Research Report
有機半導体と機能性ポリマーの自発相分離現象を利用した革新的センサーの開発
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18J21908
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧田 龍幸 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 有機半導体 / センサー / 有機電界効果トランジスタ / 単分子層 / 有機単結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機半導体は室温付近での塗布法による高性能な結晶性薄膜の製膜が可能であり、多様なセンサー需要が見込まれるこれからのエレクトロニクス産業における基盤材料として注目されている。本研究では、有機半導体単結晶と選択性を有する絶縁性高分子のハイブリッド薄膜を用いて高感度センサーの実現を目指す。塗布法による有機半導体の結晶成長では厚さ数分子層からなる超薄膜を得ることができるが、微小な電気信号変化を高感度に検出するためには検出対象とキャリア伝導層が最も接近可能な一分子層膜が有利であると考えられる。しかしながら、電極を一分子層膜上に形成する場合、一般的な真空蒸着法のような手法では、熱的なエネルギーによる破壊のためにデバイスとして動作しなくなることが知られている。この一年では、この問題を解決して一分子層膜をセンサーの検出層として利用するため、別基板上でパターニングした電極の半導体膜上への転写法を新たに開発した。 本手法では、二種類のポリマーの組み合わせを用いた。これらは、電極を半導体膜上に転写する際に静電気力による接着を可能にする薄いポリメチルメタクリレート膜と、電極フィルムとしての扱いを容易にし、後で溶解させることが可能な水溶性ポリマーであるポリビニルアルコール(PVA)の厚膜である。剥離層を形成した基板上に電極材料を形成してパターニングした後にこれらを製膜して剥離することで、電極が埋め込まれたフィルムを作製することに成功した。これを加温しながら一分子層半導体膜上に設置することで、フィルムが柔らかくなり半導体膜上に貼り付いた。ここで、水を滴下してPVAを溶解させることで、薄いPMMAと電極の積層膜が残り、静電気力によって半導体膜上に接着した。以上によって一分子層を破壊せずにデバイスを作製することに成功し、高感度センシングに適した一分子層単結晶薄膜をデバイスに用いることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
高感度液中センシングが可能な有機電界効果トランジスタ(OFET)を作製するためには、様々な要素技術が求められる。液中でのデバイス駆動に必要な低電圧駆動OFETについては、初年度の結果によって、有機無機複合絶縁膜を利用することで1.5 Vという低電圧で駆動するOFETの実現に成功している。また、再現性のよいデバイス作製に必要な分子層数を制御した有機半導体単結晶薄膜の製膜を行う上では、半導体膜塗布時に下地の電極による凹凸等の影響によって均一な単結晶薄膜の製膜が難しいことや、利用可能な絶縁膜等の下地に多くの制約がある。このような制約を軽減するため、あらかじめ別基板に製膜した単結晶薄膜を転写する手法についても初年度に確立した。さらに、高感度なセンシングにおいては検出対象物とキャリア伝導層が最接近可能な一分子層の単結晶を用いることが有利であると考えらえるが、弱い分子間力によって集合体構造を形成している有機半導体は、電極形成時の溶剤や熱によるダメージを受けやすいという課題がある。昨年度は、この点についても、あらかじめ別基板上で作製した電極を転写することで、半導体にダメージを与えることなく電極を積層することに成功した。 以上の成果により、当初の目標であるセンシングデバイス実現に向けて必要な要素技術が確立できた。次年度では、この手法を用いて液中で動作するセンサーを試作し、検出対象物が単結晶中のキャリア伝導に与える影響について検証していく予定である。これらの結果は、高感度センシングの実現が期待できるのみならず、これまで様々な制約のあった有機半導体の積層デバイス作製を簡便にすることが可能であり、広く有機半導体デバイスの研究を促進するものである。よって本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は前年度までに得られた結果を基軸とし、単分子層単結晶を用いて液中で駆動可能なセンシングデバイスの試作を行い、検出対象物が選択性を有する絶縁性高分子層上に吸着した際の有機半導体単結晶中のキャリア伝導への影響を検証する。これを達成するため、まず、昨年度に確立した電極転写手法を応用することで、測定対象の電解液から電極を保護するためのフッ素系高分子絶縁膜のパターニングおよび形成手法を確立する。転写後の電極保護膜の形成状態については、走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)を用いて構造の観察を行い、適切に保護が行われているかを確認する。センシングデバイスの試作においては、これまでの検討で確立した半導体膜の転写技術や低電圧駆動デバイス作製技術を組み合わせ、再現性および信頼性の高い単分子層単結晶デバイス作製を行い、系統的なセンシング実験を行うためのプラットフォームとする。作製したデバイスの水中でのトランジスタ特性や動作安定性について、電気的な測定による検証を行う。続いて、単分子層上へのイオン吸着による電気的応答性や選択的吸着性を有する絶縁膜が与える応答性および選択性の差について、特定のイオン等の検出対象物に対して選択性を示すことが既に明らかとなっている材料の薄膜を半導体膜上に形成して検出実験を行う。検出対象物の濃度の影響や、選択性を示す層の厚みの影響等を詳細に検証し、現象の理論的な解明を進める。以上によって得られた結果を用い、選択性と溶液プロセスによる製膜性を併せ持つ絶縁性高分子設計へのフィードバックを行い、硝酸イオンやアンモニウムイオン等のさらに多様なイオンセンサーや、がん細胞のような生体センサーについての検討を行う。
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[Journal Article] High-performance, semiconducting membrane composed of ultrathin, single-crystal organic semiconductors2020
Author(s)
T. Makita, S. Kumagai, A. Kumamoto, M. Mitani, J. Tsurumi, R. Hakamatani, M. Sasaki, T. Okamoto, S. Watanabe, and J. Takeya
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Journal Title
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
Volume: 117
Pages: 80-85
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Scalable Fabrication of Organic Single-Crystalline Wafers for Reproducible TFT Arrays2019
Author(s)
Shohei Kumagai, Akifumi Yamamura, Tatsuyuki Makita, Junto Tsurumi, Ying Ying Lim, Takahiro Wakimoto, Nobuaki Isahaya, Han Nozawa, Kayoko Sato, Masato Mitani, Toshihiro Okamoto, Shun Watanabe, Jun Takeya
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 9
Pages: 15897
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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