2018 Fiscal Year Annual Research Report
Realization and Control of Novel Quantum Spin Liquid in Epitaxial Thin Films
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18J21922
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
根岸 真通 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | エピタキシー / 強相関電子系 / ディラック半金属 / 磁気転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、キタエフ型新奇量子スピン液体の候補物質である層状ハニカム型イリジウム酸化物A2IrO3のパルスレーザー堆積法による製膜実験を実施し、良質な薄膜試料を実現する製膜条件を探索した。その結果、α-Li2IrO3が、3回対称性を持つSrTiO3(111)基板上に単相成長することを発見した。この条件で製膜した薄膜試料は、4回対称基板を利用した先行研究と比較して、結晶性が優れており、今後の薄膜におけるキタエフ系探究の足掛かりとして有望である。しかし、現状ではα-Li2IrO3の格子定数が基板に対して固定されていないため、基板からの圧力効果によるキタエフ系の制御ができないという課題がある。 また、イリジウム酸化物の磁性を探究する関連物質として、ペロブスカイト型SrIrO3の薄膜合成と磁気特性の評価も行った。ペロブスカイト型SrIrO3はディラック線ノード半金属の候補物質であるが、イリジウムサイトをスズで部分元素置換することによって、弱強磁性を伴う反強磁性絶縁体への相転移が現れることが知られており、ディラック電子系における電子相関・磁性の効果を調べるよい舞台である。しかし、従来のSrIrO3の試料では、多結晶だったり薄膜でも配向制御が不十分であったりという理由で、弱強磁性磁化の容易軸が試料内で揃っておらず、詳細な磁性の評価ができないという課題があった。この課題を解決するべく、表面に原子層レベルのステップ構造を持つ基板上にSrIrO3の薄膜を成長させたところ、ステップ構造が特定の方向を向いている場合に、従来4種類が混在していた薄膜層の結晶配向が2種類にまで制御できることが判明した。そして、本方法で配向制御を行った、磁気転移を示すスズ置換SrIrO3薄膜の磁気異方性を調査し、弱強磁性容易軸を結晶構造に対して決定することに成功した。これにより、詳細な磁気構造の議論が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
薄膜合成条件の探索に想定より時間がかかったため、当初の計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、良質な結晶性を持つα-Li2IrO3薄膜の実現には成功したものの、現状では薄膜層の結晶格子が基板に対して緩和しているため、基板からの圧力効果によってキタエフ系の変調・制御を行うという当初の計画には不都合である。そこで、今後は、バルクのα-Li2IrO3に近い格子定数を持つLiNbO3などの基板を用いて製膜実験を行い、薄膜層の格子定数が基板に対して固定されている試料の実現を目指す。 また、本年度に進捗があったペロブスカイト型イリジウム酸化物についても、継続して研究を行う。本年度の研究によって、元素置換下で現れる磁性の性質については解明が進んだものの、無置換系においてディラック電子系の特徴である高移動度キャリアが確認されておらず、ディラック電子系と電子相関・磁性との協奏効果を探究する上で課題となっている。伝導キャリアの移動度が高くないことが、試料の品質が充分でないことが原因なのか、あるいは、エピタキシャル薄膜という試料形態の特性なのかは、現時点で不明である。そこで、薄膜合成条件の最適化に加えて、バルクでの試料合成も行い、高移動度試料の実現を目指す。
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