2018 Fiscal Year Annual Research Report
乳幼児期の初期言語発達における可塑性と分化多能性:道具使用との発達連関に着目して
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18J21948
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
萩原 広道 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 乳幼児 / 言語発達 / 出来事 / 名詞 / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
■本研究の目的は,乳幼児期の道具使用と言語との発達連関に着目して,初期言語がどれほど品詞構造によらず分化多能性に富むかを検証し,その可塑的な形成・分化過程を解明することである。この目的のために,本研究では,①初期言語は明確な品詞構造をもたず,ひとつの語の意味には未分化な〈出来事〉全体が自由度高く結びつく,②初期言語は可塑性に富み,語-意味のマッピングの動的変化を伴って明確な品詞へと分化する,③初期言語の可塑的形成・分化過程は,道具使用の発達によって促進される,という3つの仮説を提起し,それぞれについて実証的に調べることを目指している。 ■今年度は主に,仮説を精緻化するための先行研究の精査,および実験・調査にむけた方法論の整備と予備実験を行なった。まず,本研究の仮説を精緻化し,今後の展望をまとめた結果は「ベビーサイエンス」誌に掲載された。次に,方法論の整備については,2つの点で進捗があった。第一に,アイトラッカーを用いた実験の準備を進めていたが,予備実験の結果,本研究においては当面の間タッチパネルを用いた実験に改変した方が好ましいことが判明し,実験手続きを変更することとした。第二に,定型発達児の養育・保育場面や発達障害児の療育場面など,非実験場面のデータを収集し定量化する手法を探索するために,まずは発達検査場面の動画から身体運動を抽出し定量的に解析・評価解析する手法の開発を共同研究者と進めた。 ■今年度は本実験のデータ収集には至らなかったが,上記の進捗によって,次年度早々に複数の実験・調査を並行して実施することができる見込みである。また,今年度までに実施した研究の国際誌への投稿準備を進めており,次年度初頭に投稿する予定となっている。さらに,言語発達と道具使用を架橋する「スケールエラー」と呼ばれる現象に着目した共同研究も新たに実施する予定であり,本研究のさらなる推進が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備実験の結果,方法論上の改変が必要となったために今年度中の本実験の実施には至らなかったが,本研究の目的においてより適した手続きで次年度初頭より本実験を開始できる見込みである。さらに,研究を進める中で,言語発達と道具使用を架橋する「スケールエラー」現象に着目すると良いことが新たに判明したが,今年度中に共同研究者との打ち合わせを重ねたことで,次年度初頭より本格的にデータ収集が可能という状況に達している。したがって,進捗はおおむね順調であるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,主に以下の3つの実験・調査を実施する予定である。 ①名詞的な語の意味分化に関する実験:道具の名前に対応する語の獲得過程について調べるために,前年度に作成した動画刺激を用いて乳幼児のデータを収集する。さらに,道具使用と語の意味分化との関連性について検討するために,実行機能,記憶などの認知課題を併せて実施する。 ②道具に関する概念の抽象化に関する実験:言語発達と道具使用とを架橋する「スケールエラー」現象に注目して,共同研究者とデータを収集・解析する。スケールエラーは,語彙爆発が起こる時期と同じくらいの月齢で特異的に見られる発達現象であり,眼前の道具の大きさに頓着することなくその道具の慣用行為をしてしまうことを指す。言語発達とスケールエラーとの影響関係を調べる実験を計画している。 ③母子相互作用の縦断的発達に関する調査:母子間の相互作用場面のビデオ撮影を行ない,2者の言語やコミュニケーション,韻律の縦断的な変化について検討する。子どもにはヘッドマウントカメラを,母親にはウェアラブルアイトラッカーを装着予定であり,さらに俯瞰で記録するための広角カメラの使用を予定している。 さらに,次年度の研究実施に向けた予備的調査も行なう。具体的には,発達障害児のデータ収集に向けて,作業療法場面の記録や予備的解析,共同研究者との打ち合わせを複数回実施する予定である。また,実際の道具使用場面から定量的な運動情報を抽出するための予備的な定量化・解析を試みる。
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