2018 Fiscal Year Annual Research Report
自閉スペクトラムの多様性の背景にある感覚処理特性の解明
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18J22022
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
矢口 彩子 立教大学, 現代心理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / ASD / 感覚処理 / 感覚過敏 / 社会コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では自閉スペクトラム症(ASD)が示す多様な特性を規定する感覚処理特性を明らかにすべく,ASD被診断者を特性の個人差によって分類し,感覚処理特性との関連を検討する。 平成30年度はASD群の分類を行った。社会性の困難さと感覚入力への応答性を,対人応答性尺度(SRS-2)と感覚プロファイル短縮版(SSP)によって測定し,その得点を元に分析したところ,3グループに分類された。グループ1とグループ2は同様の得点パターンを示し,グループ1は感覚の難しさと対人場面での困難さをより強く示し,グループ2はそれらをより穏やかに示した。このことから感覚入力への応答性と対人場面での難しさとの関係性が示唆された。グループ3は他グループと異なる得点パターンを示し,感覚入力への応答性に関連して身体の疲れやすさの傾向が強く,さらに対人行動への不安が高い傾向が見られた。したがって,疲労感の強さと対人不安とが関連すると考えられる。このようにASD群内でもその特性によって分類でき,各グループでユニークな傾向があると示唆された。今後データを追加し結果の頑強さを検討するとともに,他のASD特性との関係性を検討する予定である。 さらに各ASD特性がどのような感覚処理特性と関連するのかについて検討を行った。まず感覚の過敏性と高い時間処理能力との関係性が見られ(Ide, Yaguchi et al., 2018),時間的加重からそのメカニズムが説明されることを示した(International Society for Autism Research 2019にて発表)。また定型発達者を対象とした複数の実験課題からなる研究では,社会性の困難さと視聴覚処理の時間的な側面とが関連することが示された(日本心理学会82回にて発表)。以上のようにASD特性はそれぞれが独自に感覚処理特性と関連して発現していると示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究では,前述のようにASD被診断者の持つ特性のパターンに注目をしてサブカテゴリー化を試み,質問紙を用いた検討から被診断群であっても一定のサブカテゴリー群が存在することを明らかにした。この知見は当該研究課題の推進において重要であり,今後の研究計画の基盤となる。 さらに,次年度以降の計画に先立ちASD特性とそれぞれ関連の強い感覚処理特性について検討を行ってきた。ASD被診断者を対象とした研究と診断を受けていない定型発達者を対象とした大規模研究から,ASD特性はそれぞれが独自に感覚処理特性と関連して発現していると示唆された。詳細は研究実績の概要を参照とする。これらの知見はASD特性によるサブカテゴリー間の感覚処理特性の違いの検討にあたり,注目するのに最適な処理特性および実験課題の見極めに重要である。以上のように,積極的に研究活動を展開し,一定の成果を挙げた。また,得られた研究成果を積極的に公表している。したがって,おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,ASD被診断者を個人の示す特徴により分類することでサブグループの作成を行った。 令和元年度上半期は,各サブグループが示す時間処理能力の違いを検討する。時間処理能力の測定には時間順序判断課題と間隔検出課題を用いる。時間順序判断課題では左右の手の人差し指に振動提示装置を装着させ,様々な時間差を持ってそれぞれの指に振動刺激を提示し,その順序を回答させる。間隔検出課題では左手人差し指に振動提示装置を装着させ,様々な時間差を持って振動刺激を2回提示し,刺激の提示回数を回答させる。これらにより,どの程度短い時間差で提示された刺激でも区別することができるかを表す時間分解能を測定し,各サブグループの示す時間分解能の違いを明らかにする。 さらに,令和元年度下半期には,サブグループごとに示される触覚刺激入力への感度の違いを検討する。感度は刺激の検出課題と順応課題を行って測定する。検出課題では左手人差し指に振動提示装置を装着し,様々な強度の刺激を提示し刺激を感じたか否かを回答させる。さらに,連続的な刺激の提示により後に提示される刺激への感度が鈍くなる現象を順応と呼ぶが,順応課題では順応下での刺激の検出課題を行ってもらう。これらにより,どの程度弱い刺激でもそれを感じることができるかという刺激入力への感度を測定し,各サブグループ間でその値の比較を行う。また,研究結果を取りまとめて論文および国際学会にて研究成果を発表する。
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