2018 Fiscal Year Annual Research Report
未就学児における視線情報処理と集団適応の関連:実験室とフィールドからの総合的検討
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18J22088
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石川 光彦 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 視線追従 / アイコンタクト / 心拍 / 乳幼児 / Natural Pedagogy / 機械学習 / 社会的認知 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究では,乳幼児はアイコンタクトや対乳幼児向け発話などの他者のコミュニケーションの意図を伝えるシグナルに感受性があり,そのようなシグナル (communicative cue) がある場面でのみ視線追従すると主張されてきた。このような仮説はnatural pedagogy仮説と呼ばれる。しかし,communicative cueがどのように乳幼児に作用することで視線追従が促進されるのかについては明らかになっていなかった。そこで,communicative cueが乳幼児にどのような影響を与えて視線追従の促進が生じているのかを生理学的指標として心拍計測を行って検討した。その結果,代表的なcommunicative cueであるアイコンタクトは,乳幼児の心拍を促進し,アイコンタクトがある場面でのみチャンスレベル以上で視線追従が生じることが示された。これはnatural pedagogyに一致する結果である。さらに,本研究では,乳幼児の心拍が高まった状態では,communicative cueの有無にかかわらず視線追従が生じやすいことが明らかとなった。この結果は,従来のなぜ乳幼児が視線追従するのかという大きな問いに対して,生理学的覚醒が高まっていることが1つの要因となるという理論的な枠組みを追加するものである。本研究は国際誌Proceedings of the Royal Society Biological Scienceにて出版済みである。 また、実証研究の結果から示唆される乳幼児の視線追従を決定している要因について,実際の乳幼児の行動をどのくらいの精度で予測できるかをニューラルネットワークを用いて検討した。機械学習による予測の結果から,視線追従メカニズムにはcommunicative cueと乳幼児の生理学的状態,そして画面に対する注意状態が影響していることが支持された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度では、本プロジェクト関連研究の内容を、国際誌での論文出版3本、国際学会での発表4回と、乳幼児における共同注意に関する一連の研究を精力的に行い、目覚ましい成果をあげ、世界的に高い評価を得た。国際誌での発表では、そのうちの1本は毎日新聞の1面に取り上げられ、社会への情報発信にも大きく寄与した。また、他の論文では、乳児における心拍と視線追従の関係を明らかにし、世界的に注目を浴びた。以上のように、本研究課題について当初の計画以上に成果を上げ、国際的な研究成果の発表もすでに行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、乳幼児における視線知覚について実証研究を行い、1.他者の視線が乳児の外界の認知にどのような影響を与えるのか、2.乳児が他者の視線を追従する場面での乳児の身体状態について明らかにしてきた。しかし、乳児がどのようなメカニズムによって他者の視線を追従するのかについては、いまだ明らかではなく議論が続けられている。今後の研究では、乳児の視線追従メカニズムの解明を目標に、これまでの研究を統合する理論の作成を行っていく予定である。具体的には、実証研究だけではなく、コンピュータシミュレーションを用いた乳児の行動のモデリングなど、従来の研究では行われていなかったアプローチをすることで、新たな知見をもたらすことができると考えられる。
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