2018 Fiscal Year Annual Research Report
揺らぎの入った相対論的流体力学と重イオン衝突反応への応用
Project/Area Number |
18J22227
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
坂井 あづみ 上智大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | クォーク・グルーオン・プラズマ / 相対論的重イオン衝突反応 / 相対論的流体力学 / 流体揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
「揺らぎの入った相対論的流体力学と重イオン衝突反応への応用」という題目で研究を遂行した。平成30年度は揺らぎの中でも、流体の時空発展に現れる熱揺らぎ(以下「流体揺らぎ」)と重イオン衝突時に生成されるエントロピー分布の空間的な揺らぎ(以下「初期揺らぎ」)を中心に解析を進めた。 高エネルギー重イオン衝突反応において生成されるクォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)の物性について、流体揺らぎを取り入れた相対論的流体力学を用いて解析を進めた。まず、流体揺らぎの影響を理解するために、実験で測定されている運動量空間で離れた2点間の相関の喪失の解析を行った。流体揺らぎを大きくすることでより相関の喪失が起こることが分かり、流体揺らぎが観測量に与える影響を調べることが出来た。それに加え、QGPの詳細なダイナミクスを理解するための新たな物理量の提案と、その解析を行った。測定される粒子分布の事象平面角は、衝突軸方向に線形近似をされることが多かったのに対し、今回提案した物理量では高次の項まで定量化することができ、衝突軸方向にQGPが膨張するダイナミクスの理解を深めることが出来た。 高エネルギー重イオン衝突反応において測定される運動量空間で離れた2点間の相関の喪失について、より詳細な解析をおこなうために、衝突初期状態におけるQGPのエントロピー分布の揺らぎを考慮した解析も行った。これまで、衝突初期状態の記述には衝突軸方向に滑らかな分布関数を用いていたのに対し、粒子生成を考慮することでエントロピー分布に揺らぎを取り入れた模型を導入した。その結果、流体揺らぎと初期状態の揺らぎを両方同時に取り入れた解析を行うことで、2点間の相関の喪失を表す物理量の実験における振る舞いをよく再現できることがわかった。本解析により、相関の喪失の起源についての理解を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画の概要は以下の三点である。 1.流体揺らぎを取り入れたモデルを用いた物理量の解析を行う。 2.クォーク・グルーオン・プラズマ(QGP)のずれ粘性を評価する。 3.相転移の影響を取り入れることを目指し情報収集を進める。 本年度は流体揺らぎの影響の解析を中心に解析を進めた。流体揺らぎが観測量に与える影響を調べた。QGPの詳細なダイナミクスを理解するための新たな物理量の提案と、その解析も行った。また、初期揺らぎの影響の解析を行うことで、QGPの輸送的性質の理解に繋がる模型の構築を進めることができた。そして、学会や議論を通じて、相転移現象についての情報収集を行うことができた。これらの結果について、学会でも発表を行った。以上の理由により進行状況はおおむね順調であると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、高エネルギー重イオン衝突反応における素粒子レベルでの初めての相転移現象の発見に向けて、統合的動的模型に相転移現象を取り入れるためのコードの拡張を進める。 まず臨界現象を記述するために、本研究ではオーダーパラメータ場とバリオン密度場の時空発展を背景流体場のもとで連立させて解くことを目指す。そのためにまず有効ポテンシャルをオーダーパラメータ場とバリオン密度を使って書き下す。この有効ポテンシャルを用いて、これらの場に対する運動方程式を導出する。一方、臨界現象を含む現象論的な状態方程式を流体模型に導入し、背景流体場の時空発展を記述する。これにより、流体揺らぎの入った相対論的流体力学の枠組みの基で、臨界現象を含む統合的動的模型を構築していく。新たに構築する模型を用いた解析をおこなうことで、衝突反応によって生成された物質が臨界点や1次相転移線を通過した際に実験結果に表れる相転移のシグナルを提示、評価していく。
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