2018 Fiscal Year Annual Research Report
日本語終助詞の用法記述のための統一的方法の構築―方言終助詞の比較を目指して
Project/Area Number |
18J22283
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
春日 悠生 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 終助詞 / 福岡県久留米市方言 / ヤン / タイ / バイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に福岡県久留米市の終助詞に関する包括的な記述を行い、その際に必要となる記述の枠組みについて考察を行った。順に、(i) 久留米市方言の終助詞ヤンに関する記述的研究、(ii) 久留米市方言の終助詞タイ/バイに関する用法整理について述べる。 (i) 久留米市方言のヤンは共通語に言い換えを行った際に主にジャン/ヨに置換されることから、それぞれの共通語の文末詞に関する先行研究の用法分類に当てはめることでヤンの意味範囲の画定を試みた結果、ヤンは、田野村 (1988) による共通語デハナイカの用法のうちデハナイカI類に相当する用法と、共通語ヨに対応する「矛盾考慮の命令」「矛盾考慮の依頼」「反語」「勧誘」「認識形成の要請」の用法を持ち、相互承接可能性からヤン1/ヤン2に分けて分析することが妥当であることがわかった。以上内容を日本方言研究会(2018年10月13日、岐阜大学)で口頭発表した。 (ii)本研究はタイ・バイの諸用法の記述を試みるとともに、それぞれの意味的な異なりの記述を試みた。発話行為論 (Searle 1979) を下敷きに用法の分類を行った結果、まずタイは主に平叙文に接続し、commissive, declarative, expressive, assertive の行為に対応する用法としてそれぞれ「意志」「許可」「把握」「推測、当然、前提」が与えられることがわかった。またそれぞれの用法において、タイとトタイ (トは準体助詞ノの方言形) で異なる意味で使い分けられていることもわかった。次にバイも主に平叙文に接続し、directive, expressive, assertive の行為に対応する用法として「行動の促し」「把握」「情報の提示」が挙げられることがわかった。以上内容を西南言語対照研究会 (2019年3月8日、西南学院大学)において口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の予定通り、福岡県久留米市方言の終助詞記述が進展しており、次年度以降に予定されていた、共通語終助詞一般についての研究も含めて一定程度の進展が見られたため、おおむね順調に計画が遂行されている。 それぞれの終助詞ヤン・タイ・バイについての記述を成果として残すことができている点は評価に値する。しかし2018年度終了時点ではデータの質として主に内省データにとどまっており、実地調査による裏付けが不足していた。そこで繰越課題として2019年度に行った研究により、前年度の不足点を補うことができた。以上の理由より、おおむね順調に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今までの研究がおおむね順調に進行しているため、今後の研究の推進方策としてはとくに変更を行わず従来の予定通りの進行を計画している。次年度は、福岡県久留米市方言に限らず共通語などの終助詞も包括的に扱うことのできる記述方法の統一的体系を、個別の言語現象に照らしつつ作成していくことに取り組んでいく。 その際に、一般言語学・語用論・会話分析・機能言語学・言語類型論などの言語普遍的な仮説として提唱されている諸理論の考えを援用しながら作成することで、個別の言語現象にとどまらず、日本語の文末表現に関するできるだけ多くの現象を統一的に説明することが可能となるような説明力の高い枠組みを作成する。
|