2019 Fiscal Year Annual Research Report
日本語終助詞の用法記述のための統一的方法の構築―方言終助詞の比較を目指して
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18J22283
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
春日 悠生 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 終助詞 / 発話行為 / 文末表現 / 非自然的意味 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に日本語共通語の終助詞に関する諸現象の観察を通して、その諸現象を包括的に説明するための枠組みの構築への素案の作成を試みた。 (i) H. P. Grice は言語的意味を人の意図による非自然的意味の一種であると規定した。この意図には3つの種類があり、「情報意図」と「伝達意図」、そして「伝達意図をもってして情報意図が伝わるようにする意図」の3つすべてが存在する場合に、初めて非自然的意味が伝わるとしている。本研究ではその定義がコミュニケーションのあり方を十全に扱えない場合を提示し、話し手の言語産出としての非自然的意味と聞き手の言語理解としての非自然的意味を区別することによって、さまざまなコミュニケーションの場面に当理論が応用できるように改訂を加えた。 (ii) Searle の発話行為理論では発話行為が大きく5つに分類され、その基準として「言葉と世界の間の適合方向」をふくむ数点が用いられている。本研究では、日本語の文末表現による意味の違いが発話行為・発語内効力の違いに起因すると考え、その5つの中の演述行為(assertive)と表出行為(expressive)に対応する日本語の文末表現の用法について、発話行為理論の観点から再検討を行った。その結果、ノダ/ダロウ/デハナイカなどの文末表現の複数の用法において、演述行為の特徴と表出行為の特徴を併せ持つ行為が存在することがわかった。この結果は、Searle による5分類が独立した分類でなかった可能性を示している。そこで本研究では、演述行為と表出行為を独立した行為としてではなく、「命題が前提となっているか否か」「命題に対する心理状態が強く表現されているか否か」の2軸からなる連続体をなすものとして捉えなおすことで、文末詞の記述に対してより妥当な発話行為理論の分類になることを主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の予定通りに、日本語の終助詞・文末詞を統一的に記述するための枠組みの構築に向けておもに発話行為理論を基礎とし、個別の文末詞と対応させつつ研究が進展しており、おおむね順調に計画が遂行されている。情報学研究科との共同研究においても自らの研究に資する内容の学会発表を行っており、総合的な視点から対象を捉えられている。 日本語の文末詞としてノダ、ダロウ、デハナイカなどを対象とし、それらが文末表現として用いられた際に現れる発語内の力を発話行為理論の観点から分析する視点は、文末詞の用法を統一的に記述する際の有用な視点といえる。当該観点からの学会発表、論文発表の成果を残していることも評価できる。ただし、本課題の対象とする範囲がいわゆる終助詞以上のものへと拡大しつつあり、対象を適切な形で絞っていくことは来年度の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに大枠が完成された日本語終助詞を中心とする文末表現の記述を可能にするための枠組みを用いつつ、実際の終助詞記述を行っていくことを中心に研究を実施する。語用論や一般言語学、会話分析、発話研究によって蓄積されてきた概念を終助詞の用法記述のツールとして利用し、また自然談話データにおける終助詞のふるまいの観察を通して、構築中の枠組みに対する改訂も加えていく。 具体的には、終助詞の各用法を「発話行為」や「発語内効力」と同一視することで、従来の研究における用法分類において散見された異なる行為の混同を整理し、より実際の使用に近い形で用法を分類する。また、主に会話分析による知見より、発話の位置(第一位置、第二位置、第三位置)による機能の異なりを用法の異なりとして積極的に採用し、会話のダイナミックな流れの中で終助詞が果たしている機能を明示的に記述できる枠組みへと改訂していく。 日本語共通語の終助詞であるヨ、ネ、ヨネなどを中心に、文末用法を持つノダ、確認要求表現とされるダロウ、デハナイカなど、終助詞と機能が類似している形式の持つ意味機能を包括的に記述することを目指す。またそこでの記述方法を福岡県久留米市方言の終助詞であるバイ、タイ、ヤンなどに応用し、枠組み自体の発展可能性を示す。
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