2018 Fiscal Year Annual Research Report
血管新生能と組織接着能を有する成長因子フリーハイドロゲルの創製
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18J22422
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
水野 陽介 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 細胞浸潤性 / タラ由来ゼラチン / 疎水化 / ハイドロゲル / 架橋のランダム化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の目的は、移植臓器および移植細胞の生着率を向上させるために、栄養・酸素の供給を担う血管を誘導するような材料の開発である。先行研究では、ヘキシル基(C6)を導入したブタ由来ゼラチンからなる多孔膜が、生体内において血管新生を誘導した。しかし、多孔膜は生体内へのインプラントにおいて、切開等の侵襲性のある手術が必要という点に課題があった。そこで、本研究では、低温流動性の高いタラ由来ゼラチン(ApGltn)に対してヘキシル基を導入したヘキシル化タラゼラチン(C6-ApGltn)を合成し、医療応用実績のあるポリエチレングリコール系架橋剤により架橋することでin situ硬化が可能なハイドロゲルとした。C6-ApGltnハイドロゲルの動的粘弾性は、オリジナルゼラチン(Org-ApGltn)ハイドロゲルと同等であった。一方、ハイドロゲル表面に対する接触角測定では、Org-ApGltnハイドロゲルと比較して、C6-ApGltnハイドロゲルに対する接触角の減少率、つまり吸水速度が有意に増加した。そこで、ピレンを用い、ハイドロゲル内部の疎水性を評価したところ、C6-ApGltnハイドロゲル内部には疎水性ポケットが存在することが示唆された。ハイドロゲル上でマウス線維芽細胞およびマクロファージを培養したところ、接着・増殖することが確認されたが、炎症性サイトカインの産生はみられなかった。一方、Org-ApGltnハイドロゲルと比較して、C6-ApGltnハイドロゲル内部への各種細胞の浸潤性が著しく上昇していた。また、ラット皮下にハイドロゲルを埋入したところ、細胞実験と同様にC6-ApGltnハイドロゲル中への細胞浸潤性の向上が確認された。これは、ヘキシル基同士の疎水性相互作用による架橋構造のランダム化により、細胞が浸潤しやすいネットワーク構造へ変化したことによると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、ヘキシル基による架橋構造のランダム化を誘導し、ハイドロゲルに対する細胞浸潤性を向上させることに成功したが、血管新生能の向上までには至らなかった。一方、細胞に対して弱い炎症を惹起させることに着目し、疎水基鎖長を長くすることでグラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖(LPS)の構造を部分的に模倣することで、炎症および血管新生を誘導できるのではないかと考えられた。予備実験において、ドデシル基(C12)を導入したタラゼラチン(C12-ApGltn)が、マウスマクロファージに対して炎症を誘導するとともに、血管新生の重要な因子である血管内皮細胞増殖因子(VEGF)産生量の著しい増加が確認された。従って、今後はC12-ApGltnからなるハイドロゲルを調製し、in vitroおよびin vivoにおける血管新生能を評価することを目的とする。
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Strategy for Future Research Activity |
グラム陰性菌の細胞壁を構成するリポ多糖(LPS)には、複数の飽和脂肪酸が二糖に結合したリピドAと呼ばれる部位が存在する。この疎水基が免疫細胞のToll様受容体4(TLR4)中の疎水性部位と相互作用することで炎症を誘導し、血管新生も誘導されると考えられる。従って、緑膿菌のリピドAを構成するドデシル基を修飾したタラゼラチン(C12-ApGltn)は同様に炎症および血管新生を誘導するのではないかと予想される。C12-ApGltnは、これまでと同様に還元アミノ化法により合成し、ポリエチレングリコール系架橋剤により架橋することでハイドロゲルとする。その後、動的粘弾性測定、接触角測定、および膨潤度測定により物理化学的性質を評価する。その後、ハイドロゲル上でマクロファージ等を培養し、炎症性サイトカインおよび血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の定量を行うことで血管新生能を評価する。また、TLR4のLPSに対する応答性を阻害するペプチドを用い、同様に炎症性サイトカインを定量することで、C12-ApGltnによる炎症がTLR4に依存するかどうかを判定する。in vitroにおいて血管新生能が確認されたら、マウス皮下にC12-ApGltnハイドロゲルを埋入し、一定期間後における周辺組織の組織切片を免疫染色することで血管新生の定量を行う。
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