2018 Fiscal Year Annual Research Report
腸管オルガノイド培養系を用いた抗炎症性食品成分の探索と解析
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18J22466
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
齋藤 由季 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 腸管オルガノイド / 腸管上皮細胞 / 炎症 / TNF-α / IL-4 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マウスの小腸・大腸から作製した腸管オルガノイド(ミニ腸管のような3次元細胞組織体)を用いて腸管上皮の炎症を抑制する作用を示す食品成分の探索を行い、抗炎症効果が認められた食品成分について、その特性や作用メカニズムを調べることを目的としている。まず正常な腸管オルガノイドに炎症誘導因子による刺激を与え、炎症反応の初期に発現量が増加することが知られているサイトカインMIP-2の遺伝子発現量を確認した。炎症誘導因子としては始めに過酸化水素を用い、これで小腸・大腸オルガノイドの刺激を行ったところMIP-2遺伝子発現量は有意に増加した。しかし、過酸化水素による刺激では死細胞が増加し、炎症シグナルの詳細な解析が困難と考えられた。そこで次に、炎症性腸疾患の主要因子として知られるサイトカインTNF-αで刺激を行い、MIP-2遺伝子発現量を指標として炎症反応の検討を行ったところ、適度な炎症状態にあるオルガノイドを作製することに成功した。 TNF-αが関わるクローン病などの炎症性腸疾患のほかに、腸にはアレルギー性炎症がある。しかし、アレルギー反応に伴って増加するIL-4などのサイトカインが腸上皮に及ぼす影響はあまり知られていない。そこで、腸オルガノイドをIL-4で処理し、腸管バリア機能や炎症とIL-4の関わりを検討することにした。オルガノイドを構成する上皮細胞層の物質透過性や腸管バリア機能がIL-4の添加によって変化することが見いだされたが、同時に腸管幹細胞を支えるパネート細胞のマーカー遺伝子の発現量の減少や幹細胞の増殖活性の低下が見いだされた。IL-4が幹細胞の増殖に必要な因子を分泌するパネート細胞を減少させ、幹細胞の活性にも影響を及ぼすことが示唆されたことから、IL-4は腸管上皮細胞の破綻~炎症という変化のトリガーとなっている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
腸管オルガノイドにおける炎症反応の誘導に関して、過酸化水素で刺激する系では、死細胞が多く観察されるなど、今後の解析に適した炎症状態が誘導されなかった(計画が不成功)。しかし小腸オルガノイドをTNF-αで刺激することにより、誘導反応の変化をモニターできる系を構築することが出来た(予定通り進行)。一方、大腸オルガノイドでもTNF-αによる炎症は誘導できたが、大腸オルガノイドの培養条件は複雑であり、本格的な実験は次年度以降に延期することになった。このように一部、予定通りに進行しない実験もあったが、様々な試行の中でオルガノイドの取り扱いや各種測定技術(抗体染色などの組織化学的手法)の修得もできたことから、全体的には次年度につながる成果が得られたと考えている。 一方、当初の予定では中心課題でなかったアレルギー性炎症についても検討することにして、IL-4でオルガノイドを刺激する実験を試行したところ、IL-4によって腸管バリアの破綻など一種の炎症反応が誘導される結果を得た。IL-4は、腸管上皮での炎症反応を直接的に誘導するだけでなく、腸管の幹細胞やそれを制御するパネート細胞などの増殖や機能発現を低下させて、腸管上皮のバリア機能に影響を及ぼすという新規な結果も得られた(想定外の成果)。当初の計画と若干異なる部分ではあるが、探索的に施行した実験の中から新しい発見が生まれ、腸管炎症研究における新しい研究視点を提供できたことは大きな成果と考えている。これについては、現在投稿論文を作成中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度までは炎症性サイトカインとしてTNF-αとIL-4に着目してきたが、IL-1βやIL-6なども腸管上皮の炎症に関わるので、これらによる腸オルガノイドの炎症誘導についても調べる。一方、炎症反応に伴う腸管細胞内の各種変化の観察は、これまでPCR等による遺伝子発現量レベルでの測定によるものが多かったので、今後は蛍光免疫染色、ウエスタンブロッティング、ELISAによる炎症関連タンパク質の産生量測定をさらに拡大する必要がある。その中で、腸管の炎症状態を客観的・定量的に評価するために用いるべき測定指標を絞り込んでいきたい。 腸オルガノイドの炎症誘導条件と測定指標が決定したら、食品試料を添加してその抗炎症活性を測定する段階に移動する。まずは、過去のin vitro, in vivo実験系で抗炎症作用が示されている食品成分(例えばカテキンやクロロゲン酸などのポリフェノール類あるいはアミノ酸類)を用いてその活性を検証する。ここでは、食品因子をオルガノイド内部にインジェクションする必要があるので、その技術の更なる習熟も必要となる。また、オルガノイドという微小な組織体内で起こる炎症反応の変化を定量的に捉えることには困難が予想される。 その課題解決の方法の一つとして、炎症刺激に伴って分泌されたケモカイン類によって好中球等が誘引されるという生体内での現象を利用することを考えている。すなわち、炎症の程度を評価するために、好中球の遊走を定量的に測定できるようなモデル(共培養系)の構築を試みたい。また、炎症が腸管上皮細胞層の透過性亢進(バリア機能低下)を伴うと考えられることから、蛍光物質の細胞層透過性を指標にする評価法も検討する予定である。
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Research Products
(1 results)