2019 Fiscal Year Annual Research Report
超音波アシスト中赤外分光イメージングによる非侵襲血糖値センサーの基礎研究
Project/Area Number |
18J22468
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
川嶋 なつみ 香川大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | 赤外分光法 / 干渉計 / フーリエ分光 / 視野絞り / 生体計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
赤外分光法には光学系の違いにより分散型分光法とフーリエ分光法の二種類が存在する。分散型分光器は原理的に回折格子などの分散素子を用いて波長ごとの光を検出することから感度が不十分であるため水分を多く含む試料が対象となる生体計測には不向きである。対して、広帯域における多波長の光を含む白色光を同時に測定可能であることから高感度なフーリエ分光法がよく用いられてきた。フーリエ分光法はマイケルソン干渉計をベースにした可動ミラーによって時間的に光路長差を生じさせる時間的位相シフト干渉計と、ウォーラストンプリズム等を用いることで可動域をなくした空間的位相シフト干渉計の2つに分けられる。生体計測を前提とした場合、生命活動による皮膚や血管の動き等、常に動きを伴う生物が計測対象となるため、赤外分光装置には高い計測感度の他に高い時間分解能も求められることから、空間的位相シフト干渉計の使用が必須となる。しかし、空間的位相シフト干渉計は、原理的に物体面のある点光源からの光を1次元もしくは2次元に広げた状態で使用するため、受光素子の1画素あたりの計測感度を十分に確保することができない。また、空間的にコヒーレントな光を使用することで干渉性を維持するため、物体面に視野絞りを設ける必要があることからも計測感度不足が課題となっている。そこで、今年度は結像面上での視野絞りの開口幅と遮光幅が干渉縞の半波長となるよう設計し、開口部を水平方向に並べることで光の入射面積を大きくしたマルチスリットアレイを提案した。これにより、位相が0次光からπの偶数倍だけずれた波長のみで干渉縞を形成することとなるので、干渉鮮明度を維持することが可能となる。また、開口部を並べた数だけ入射光量が増えることから開口面積を合計した分だけ感度が向上し、明暗変化を強め合う波形だけ抽出しているため開口部の数の倍数だけ干渉鮮明度が向上する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目に提案した超音波による反射面創生法と、2年目に提案した光学系の高感度化手法によって中赤外分光法による生体計測への適用が可能となった。3年目に予定している吸収係数による濃度計測の高精度化と個人差認識プログラムの確立を目的とした動物実験に際して使用する小型分光器を、高開口数レンズと高感度化手法に基づいて試作した視野絞りを搭載することでより高性能に実現することができた。これにより、光子エネルギーが低く水分による吸収が極めて大きい中赤外分光器においても動物実験にて高いSN比を有する計測データを取得することが可能となる。また、個人差認識による血糖値計測精度保証の適応学習を行う際、グラフ形状の違いをパターン認識問題に置き換えたディープラーニングのような機械学習によって変化の著しい特徴量をより高精度に抽出することが可能となる。
|
Strategy for Future Research Activity |
動物実験にて光路長明確化によるグルコース濃度の高精度計測を行う。まず、超音波アシスト中赤外分光イメージングにより、超音波の周波数で一意に決定される光路長を用いることで、検出された反射光量からグルコース濃度を高精度に計測できることを実証する。これはまず、疑似生体膜中にグルコースを一定量含ませた状態で光路長を変化させた場合、周波数に応じて吸光度が変化することを確認する。その後、疑似生体膜やラットなどを用いて吸収係数からグルコース濃度を高精度に算出可能であることを定量的に実証する。 次に、家庭内に導入するヘルスケアセンサーを目指して医療機器の取り扱いに関する専門知識を持たない一般人でも技術を使用できるよう、医工学的因子を特徴量とした個人差認識による血糖値計測精度保証の適応学習を行う。まずは、個人差として『肌の色』と『皮膚の保湿状態』の2つの要因に着目した実験評価を行う。肌の色としては、メラニン量の違いが中赤外分光吸光度に与える波長毎の変化量を計測評価する。また、保湿状態の違いについては、疑似生体膜表面に水分を添加する、あるいは乾燥させることにより模擬的に中赤外分光吸光度への影響を計測して評価する。これらの分光吸光度のグラフ形状の違いを、パターン認識問題に置き換えてディープラーニングのような機械学習により変化の著しい特徴量の抽出を行う。また、疑似生体膜に注入するグルコース濃度、添加メラニン量、保湿状態の違いを組み合わせた数十種類の条件の中赤外分光吸光度を教示データとして学習する。この学習後のアルゴリズムを用いて、任意のグルコースを注入した場合でも、メラニン量や保湿状態の違いに因らずにグルコース濃度の算出が可能である汎化性を検証する。また、ラットを用いて、例えば保湿状態の変化はブドウ糖の皮下への点滴注射により外乱を与えるなどしても、安定的にグルコース濃度を計測可能であることを実証する。
|