2019 Fiscal Year Annual Research Report
柔軟な発光団を基盤とした張力プローブ分子群の開発と可視化技術への展開
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18J22477
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小谷 亮太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 応力集中 / 蛍光分子 / 可視化技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
「柔軟な発光団を基盤とした張力プローブ分子群の開発と可視化技術への展開」という研究課題について今年度は主に二つの課題について取り組んだ。 一つ目としては、力に応答する蛍光分子群のライブラリー化である。これまで研究で用いてきた分子群は炭素原子8個からなる環状共役八員環を基本骨格としてきた。しかし、力に対する感度や蛍光波長の変化を目指すべく、酸素原子を含む七員環(オキセピン)や窒素と硫黄を含む六員環(チアジン)の合成に成功した。これらの分子ライブラリーについて、溶液中における蛍光物性やその蛍光の粘度応答性、温度応答性など基礎物性を明らかにした。同時に量子化学計算を用いることで、それらの物性を理論的にサポートすることにも成功した。 二つ目としては、力に応答する蛍光色素を用いることで、ポリマー材料中における力学負荷の可視化を行った。まずはその蛍光色素を、ポリウレタンやポリカーボネートといった汎用ポリマーの中に導入することに成功し、蛍光色素がポリマーの基礎物性に与える影響がほとんどないことを示した。これは、ポリマー本来の物性を解明することでも重要な前提である。続いて、ポリマーの延伸と同時に蛍光スペクトルを測定することで、実際にポリマーの延伸に伴う張力の可視化に成功した。この際、ポリマーの構造に着目することで、力の負荷(応力集中)がポリマーの一部に偏っていることを実験的に明らかにした。さらに顕微鏡下で観察することで、ポリマーの破壊に伴う蛍光変化をリアルタイムかつサブミリメートルのスケールで追跡することにも成功した。こうした、異なるスケールでの力の測定手法は未だ開発されておらず、マルチスケールでの力の統一的理解が進んで来なかった。しかし、本研究課題で提案する蛍光分子を用いることで、様々なスケールに対応した力の定量評価ができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「柔軟な発光団を基盤とした張力プローブ分子群の開発と可視化技術への展開」という研究課題について二つの側面から評価する。 まず、張力プローブ群の開発について、基本骨格となる炭素原子8個からなるシクロオクタテトラエンだけでなく、酸素原子を一つ含む7員環(オキセピン)や窒素と硫黄を一つずつ含む六員環(チアジン)の合成に成功した。これらの分子ライブラリーに対して、溶液中における蛍光物性やその蛍光の粘度応答性、温度応答性など基礎物性を明らかにすることで、所望の環境(力に対する感度や蛍光波長)で応答するような蛍光分子の分子設計指針を示した。特に、蛍光が関与する電子状態(励起状態)における分子の構造変化については、これまで理論的な予測が多くなされてきたが、実験的な評価はなされて来なかった。そこで、本研究で合成したライブラリー化した蛍光分子群を統一的に評価することで、新規な発光挙動を示す蛍光分子群の開発へ繋がると期待される。 続いて、可視化技術については、研究目的をさらに拡張して、異なるスケールにおける力の統一的な理解を目指すことを目標にしてる。具体的な実験結果については、ポリマーの延伸に伴う力の負荷が構造の場所によって異なることを実験的に初めて実証し、粗視化シミュレーションの結果と良い一致を示すことがわかった。このことは、既存のコンピュータシミュレーションが、実際の実験系で機能することを保証するだけでなく、新しい材料開発の設計指針を考える上で重要な知見をもたらした。実際、採用最終年度においては、得られた知見を元に、新規高強度ポリマーの合成へと着手する予定である。 以上、新規蛍光分子の開発と可視化技術への展開の両面ともに、研究計画当初の実験を遂行しつつも、その枠組みを超えた材料開発へと発展していることから、本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も「柔軟な発光団を基盤とした張力プローブ分子群の開発と可視化技術への展開」という研究課題を二つの側面から遂行する予定である。 一つ目の張力プローブ群の開発については、すでに新規蛍光分子プローブ群の基礎的な溶液物性と理論化学的なサポートを行ってきた。そこで実際の張力プローブへと運用するにあたり、官能基化の最適化や実際のポリマーへの導入、力学応答の評価を行う予定である。その際、これまで得られた力の応答範囲、蛍光変化などに着目しながらライブラリー化を図る。 二つ目の可視化技術の展開については、ポリマーの材質やポリマー固有の物性に着目しながら、力学負荷の可視化について調査する予定である。現在、ポリウレタンやポリカーボネートへ蛍光色素を導入することに成功し、その力学応答発光についてポリマーの構造が重要であることがわかっている。本年度においては、ポリマー固有の物性(ガラス転移温度や剛性率)が力学応答発光に及ぼす影響についてさらなる調査を進める。同時に、新規高強度ポリマーの開発にも取り組む。これまでの知見から、ポリマーの延伸に伴う力学負荷は材料中で一様ではなく、高分子の鎖をつなぐ架橋点近傍に集中することが明らかとなった。それを新規材料開発へと活かすべく、高強度架橋点を有するポリマーの合成を目指す。すでに予備的な結果ではあるが、高強度架橋モノマーの効率的合成に成功している。これを用いて、様々な組成のポリマーにおいても、この高強度化の手法が適用可能かどうか、力学試験やレオロジー測定、熱分析といった種々の物性測定を通して評価する予定である。 以上のように、最終年度においても当初計画していた、力学応答蛍光分子のライブラリー化だけでなく、可視化技術への応用、新規機能性ポリマーの開発といった広範囲に及ぶ研究を遂行する予定である。
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Research Products
(4 results)