2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J22540
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高崎 大裕 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | フレッティング疲労 / クリープ / 水素脆化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,先進エネルギー開発技術に関連する構造材料の強度問題の解決に貢献することを目的としている. 第一の課題として,最新の油井開発技術で懸念されている油井管ねじ継手のフレッティング疲労破壊に関するメカニズムの解明と強度評価を実施した.最新の油井開発技術では,従来は考慮の必要がなかった油井管のフレッティング疲労が設計の主要因子となっている.そこで本研究では,まず実験室レベルの小型サイズの試験片により実機で生じるフレッティング疲労を再現した.そしてフレッティング疲労試験により,実機の特有の接触面内部で生じるフレッティング疲労破壊のメカニズムを摩耗のプロセスと関連付けて解明した.さらに油井管ねじ継手が使用される環境に着目し,潤滑材がフレッティング疲労特性に及ぼす影響を調査した.本課題で接触片形状を工夫することで潤滑剤の排出を抑えて潤滑材の影響を適切に評価する手法を新たに確立し,その結果,潤滑材により油井菅材料のフレッティング疲労強度が向上することを明らかにした. 第二の課題として,高温型燃料電池による水素発電や水蒸気電解による水素製造に用いられる構造材料で懸念される高温水素中のクリープに関する研究を実施した.これまでにまず本課題の研究で新たに高温水素中の材料試験技術を確立し,予備試験としてSUS304鋼の低ひずみ速度引張試験を実施した.従来の水素脆化の理論で言われているように高温では転位と水素が相互作用を持たないため,本課題の100℃以上のSUS304の低ひずみ速度引張試験では水素脆化が生じなかった.次にSUS304のクリープ試験を600℃のアルゴン中および水素中で実施した.その結果,SSRT試験の結果からは予想できない水素による大幅なクリープ寿命の減少という貴重なデータを取得することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の課題として,油井管実機の使用環境を模擬して,フレッティング疲労強度に対する潤滑材の影響の解明に取り組んだ.潤滑材の影響を適切に評価するためには,接触面からの潤滑材の排出を抑える必要があったが,本課題では試験片の形状を改良することで潤滑材の排出を抑える方法を確立し,フレッティング疲労強度に対する潤滑材の影響を評価することに成功した.潤滑材を塗布したフレッティング疲労試験の結果,潤滑材により接触面で生じる接線力係数が低下し,油井管材料のフレッティング疲労特性が向上することを明らかにした. 第二の課題として,SUS304の600℃水素中およびアルゴン中のクリープ試験を実施した.その結果,アルゴン中に比べて水素中でクリープ寿命が半分以下に低下することを見出した.さらに複数の負荷応力でクリープ試験を実施した結果,低応力域・長寿命域ほど水素によるクリープ寿命の低下が顕著になる傾向があることが明らかとなった.この結果は,水素中クリープに関する研究の今後の展望として,長寿命域の実験の必要性があることが確認された.また,クリープ試験後の破面観察の結果,アルゴン中では寿命の増加と共に起こる粒界破壊が水素中では抑制され,ディンプル破壊のままであることが明らかになった.以上のような成果を,水素脆化の国際シンポジウム(HYDROGENIUS, I2CNER and HYDROMATE Joint Research Symposium, 2020)で発表したが,将来の高温水素利用機器の安全性のために早急に取り組むべき問題を提起したこと,また従来の水素脆化理論(転位と水素の相互作用)では説明できない現象を見出したことに水素脆化の世界トップレベルの研究者から高い評価を得た.これをきっかけにして,イリノイ大学の研究者らと共同研究をスタートし,水素によるクリープ寿命低下の機構解明に取り組み始めた.
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Strategy for Future Research Activity |
第一の課題の油井管材料のフレッティング疲労について,2019年度は潤滑材の排出を抑えてフレッティング疲労強度に対する潤滑材の影響を適切に評価する方法を確立した.2020年度は複数の応力条件でフレッティング疲労試験を実施し,潤滑材が油井管材料のフレッティング疲労強度に及ぼす影響を調査する.また,実際の油井管が防錆や締結の補助のためにコーティングが施されていることを考慮して,接触片に施したコーティングの影響も調査する.これにより潤滑材がフレッティング疲労寿命を向上させるための必要条件を調査する. 第二の課題の高温水素中クリープについて,水素がSUS304のクリープ寿命を低下させるメカニズムを解明する.文献調査の結果,高温水素中クリープと関係が深そうな現象として,水素浸食,水素による析出炭化物の形状変化,水素による原子空孔密度の増加が見つかった.水素浸食は高温水素中の材料損傷としてよく知られた現象であり,材料中に侵入した水素が炭素と反応してメタンガスを生成し,結晶粒界にボイドを生成したり,マトリックス中の炭素濃度を低下させ材料強度を低下させたりする脱炭が水素浸食のメカニズムである.本課題のSUS304の水素中クリープで脱炭が生じているか確認するために,クリープ試験前後の炭素量の測定を行う.次に水素による析出炭化物の形状変化については,クリープ試験中に粒界炭化物が析出するとき水素が炭化物の形状を変化させるという報告があるため,炭化物の析出とSUS304の水素によるクリープ寿命低下との関連を調査するために,低炭素材料SUS304Lのクリープ試験を実施する.水素による原子空孔密度の増加について,クリープ変形のメカニズムは原子拡散であり,原子拡散は原子空孔の拡散により律速されるため本研究で水素と原子空孔の相互作用について調査する.
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