2019 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートリノ質量分光に向けた高次QED過程制御方法の研究
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18J22641
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
岡井 晃一 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 原子核物理 / 原子核時計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではニュートリノ対放出などの高次過程の発生確率を増幅するために、原子集団に対して巨視的なコヒーレンスを生成することを中間目標としてきたが、昨年度は巨視的コヒーレンス生成の標的としてXe原子に拘らず別の標的も視野に入れて研究を進めた。結果として229トリウム原子核のアイソマー状態に関する研究と本研究テーマが合致すると判断し、研究対象を229トリウム原子核のアイソマー状態探索に変更することにした。 一般的に原子核のエネルギー準位はkeVのオーダーであるが、229トリウムの第一励起状態(アイソマー状態)は数eVであることが知られている。光の波長領域としては真空紫外領域に相当すると考えられる。真空紫外レーザー光により229トリウム原子核を人為的にアイソマー状態に遷移させられるならば、基底状態とアイソマー状態間の原子核内コヒーレンスの制御も可能となる。さらに、原子核は周囲を電子によって遮蔽されているため隣接する原子の影響を受けにくいと考えられ、コヒーレンス持続時間が比較的長い可能性がある。よって、1つの原子核だけでなく巨視的なコヒーレンスの生成においても、229トリウム原子核は有力な標的となりうると判断した。 トリウム原子はフッ化カルシウムなどの光学媒質にドーピングした形で取り扱う。原子核準位は外の環境の擾乱を受けづらいという特性により、媒質からの影響を無視できる。また、トリウム原子は放射性物質であるため、媒質となる結晶中に留めることで比較的容易に安全な取り扱いができる。しかし、アイソマー準位に相当するエネルギーは真空紫外光であるため光学媒質による吸収が無視できない。 よって、媒質となる光学結晶の真空紫外透過率評価が求められる。昨年度は透過率評価に用いる装置開発と、実際にトリウム原子核がドーピングされたフッ化カルシウム結晶の真空紫外領域での透過率評価を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一昨年度末までの研究成果により、Xe原子に高強度狭線幅パルスレーザーを照射し、高次の光学過程を介して準安定状態を生成することができた。しかし、論理的に見積もった準安定状態の原子数と実験値が一致しないという問題があった。これを解決するべく実験的不定性の排除と理論計算の厳密化を試みている。 また、229トリウム原子核のアイソマー状態に関する研究と本研究テーマが合致すると判断し、研究対象を229トリウム原子核のアイソマー状態探索に拡大することにした。昨年度においてはトリウム原子をドープしたフッ化カルシウム結晶の透過率測定手法の開発を行い、実際に数mm角の結晶の2次元的な透過率分布を測定するなどの成果が得られているため。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は透過率だけではなく結晶表面での散乱や、反射等の影響についても包括的に測定できる装置の開発を進めている。 並行してアイソマー状態から基底状態への脱励起観測に向けた定量的な見積もりを進め、アイソマー状態のエネルギーを精密に測定するための検出器系を構築する。
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