2018 Fiscal Year Annual Research Report
オフグリッド実践に伴う感覚・行為の変容と創造性をめぐる人類学的研究
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18J22762
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北川 真紀 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オフグリッド / 地下水 / 環境変動 / ダム建設と廃村 / 人口減少社会の未来 / 感覚経験 / フィールドワーク / 文化人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用初年度となる本年度は、修士論文の内容を発展・展開させながら、現代日本におけるエネルギー自給・消費に伴う従事者の身体感覚・行為の変容、暮らし方の探求の過程で表出する創造性について方法論的・理論的枠組みの構築を行った。 また、短期、長期と2種類の現地調査を実施することで、現状の分析を進展させることができた。現地調査は5月に福井県大野市にて、6月に栃木県那須町「非電化工房」にて短期で実施、9月中旬頃からは福井県大野市にて長期住み込みでのフィールドワークを開始している。上記の研究・調査の具体的な内容とその成果・意義は以下のとおりである。
1. 研究発表とその成果:4月に開催された東アジア人類学研究会では、修士論文の内容を精査・発展させた上で栃木県那須町における「非電化」技術をめぐる発表を行った。筆者の発表に対しては「未来の学としての人類学の可能性」が指摘され、今後の研究の方法論の進展につながる有用な議論・意見交換を行うことができた。 2. 現地調査の開始:福井県大野市にて早期に住み込みの現地調査を開始することで、厚い記述のための参与観察を可能とする人間関係の基盤づくりを行うことができた。また、大野市における水道インフラからのオフグリッド的状況(地下水の利用)に関しては、天候や積雪量、ダムの建設と里山の変容など複数の要素との関連性が明らかになった。 3. 他機関・他分野との共同研究:調査地での出会いから総合地球環境学研究所が主催する国際シンポジウム等に参加して意見交換、議論を行い、地球規模の環境変動やエネルギー利用の変容と日常的経験の関連性をめぐる考察を深化させてきた。また、家庭生活や住まいという観点からの調査は、関西大学建築学科建築環境デザイン研究室との共同研究(現在進行中)へと発展している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画していた文化人類学会での修士論文の内容に関する発表は前年度内に終了させ、採用初年となる今年度は当初の予定よりも早く長期間のフィールド調査を開始している。文献調査を通した論文執筆に関しては比較的進展が少なかったが、本年度より現地調査を開始したことで本格的な調査に向けての人脈の形成をスムーズに行うことができた。加えて、調査対象者らの住まう環境と生の経験は、想定していた「オフグリッド実践」の枠組を超えて多様に広がり得ることが明らかになってきている。 国際学会等での発表や文献調査を通した理論構築という当初の計画とは異なる形になったが、現地調査へと踏み切ることで「変容する自然・社会環境や異常気象、エネルギー資源の変動を人々はいかに経験し、備えているのか」というフィールドの現実に則した課題設定が可能となったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の2年目となる2019年度は、住み込みでの現地調査を継続して実施する。具体的には、福井県大野市での「オフグリッド的状況」における自然経験をめぐって地域内で実施されている様々な活動の参与観察をすると同時に、写真・映像の撮影を通して記録・分析を行う。研究遂行においては、以下の2点について研究計画を変更する。
(1) 当初計画していた栃木県那須町「非電化工房」での調査は平成30年度中に縮小して実施、岡山県西粟倉村での木材・熱をめぐる調査は省略して、住民の約80%が地下水で生活を営む福井県大野市での住み込み調査を重点的に行う。これは、表面的なテーマを優先してデータを収集する地域を分散させるのではなく、特定の地域を中心とした内外への広がり、またテーマ同士の絡まり合いを明らかにする必要が自覚されたためである。1年目の調査で築くことのできた大野市における地域住民との付き合いをいかし、日々の生活の現場に調査者自身が身をおくことで、環境資源となる燃料や水、植物や野生動物等、個別具体的な自然環境との付き合い方やふるまいを内側から理解することを目指す。
(2) フィールド調査に集中して研究の遂行を目指すと同時に、昨年度達成できなかった研究成果の論文化と学会誌への投稿、および国際学会での発表を行う。 最終年度である2020年度には、これまでフィールドで得たデータを整理し、適宜追加調査を行いながら、福井県大野市における巨大なインフラストラクチャーへの接続と切断の経験、自然経験の変容と生の実相に関する論文を執筆する。これを学会で発表し、本研究のまとめを行う。
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