2019 Fiscal Year Annual Research Report
連続適応量子状態推定による分子ダイナミクスの最適観測の実現
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18J22804
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
野原 紗季 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 適応量子状態推定 / 量子状態推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
物理学的に最小の分散で固定された量子状態を推定することが可能な適応量子状態推定を、実際の生体計測等へ応用させるために、本年度は主に前年度に構築した高速実験系を用いて、時間的に変化する光子の偏光状態の推定を実験的に実証した。数値シミュレーションと同じパラメータ実験を行い、提案法(連続適応量子状態推定)で入力の変化に追従した推定、つまり時間的に変化する状態の推定を実現した。この時の分散についても評価をし、物理学的に最小の分散(クラメール・ラオ限界)で推定が実現されていることを確認した。さらに、適応量子状態推定で数学的に証明されている強一致と漸近有効性について、提案した連続適応量子状態推定での結果も満たしているか実験的に確認した。4つの入力状態(入力変化の傾きはすべて同じ)に対して、それぞれ100回ずつ推定を行った。その推定値の平均と分散に対して90%信頼区間で区間推定を行い、推定結果の90%信頼区間内に入力状態と分散の理論値が収まっていることから強一致性と漸近有効性を確認した。以上の結果より、適応量子状態推定を時間的に変化する状態の推定へと拡張することに世界で初めて成功した。 さらに並行して単一発光体を用いた適応量子状態推定実験に関する研究について、実験系の設計と構築にも取り組んだ。単一発光体としては、六方晶窒化ホウ素(h-BN))を選定し、その発光波長580~590 nmに合う適切な光学素子を用意し、新たに実験系を構築した(①で行っていた実験系は波長780 nmに対応するものであるため、そのまま使用することはできない)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主に時間的に変化する状態の適応量子状態推定に関する研究について研究に取り組んだ。これまでに提案と、数値シミュレーションで提案法の有効性を検証していていたため、昨年度実現した、高速実験系を用いて実験的に実証する研究を行った。数値シミュレーションと同じパラメータ(入力変化=2.4 deg/ 800光子、入力光子数=800光子、繰り返し測定回数=100回)で実験を行い、適応量子状態推定では入力の変化に追従した推定が行えないのに対して、提案法(連続適応量子状態推定)では入力の変化に追従した推定、つまり時間的に変化する状態の推定を実現した。この時の分散についても評価をし、物理学的に最小の分散(クラメール・ラオ限界)で推定が実現されていることを確認した。さらに、適応量子状態推定で数学的に証明されている強一致と漸近有効性について、提案した連続適応量子状態推定でもそれが満たされていることを実験的に確認した。以上の結果より、適応量子状態推定を時間的に変化する状態の推定へと拡張することに世界で初めて成功した。 また提案法では、従来の適応量子状態推定では見られない推定値の急激な変化が見られた。これは、拮抗している尤度関数の2つ山の間を推定値が行ったり来たりしていることによりみられる現象で、その原因は過去の情報を消すことでどちらの山が優位であるという情報が失われてしまうからであるということを、数値シミュレーションにより明らかにした。そして、この問題に対して、定期的にランダムな測定基底で測定をすることで、この現象を抑えられることを数値シミュレーションにより明らかにし、実験的にも証明した。 さらに並行して単一発光体を用いた適応量子状態推定実験に関する研究について、実験系の設計と構築を行い、今後共焦点顕微鏡系と組み合わせて実際に単一発光体からの光子の偏光状態推定に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、発光波長580~590nmの六方晶窒化ホウ素を光源とし、六方晶窒化ホウ素から放出される光子の偏光状態を、これまでの研究で実現してきた高速推定実験系と連続適応量子状態推定法を用いて行う。 これまでの高速推定システムは、光源であるレーザーダイオードの波長780nmに対応した光学素子を用いて実験系を構築していた。そのため、昨年度に六方晶窒化ホウ素からの発光波長に対応した高速推定実験系を構築した。本年度は、その新たな高速推定実験系に六方晶窒化ホウ素からの発光を集光させるための共焦点顕微鏡系を組み合わせて、偏光状態推定を行う。共焦点顕微鏡系では、試料を励起させるための励起光の用意、試料からの発光の集光、試料が単一発光体であることの確認を行う。したがって、共焦点顕微鏡系においても六方晶窒化ホウ素の発光波長に合わせた光学素子等の購入が必要となる。また、六方晶窒化ホウ素の購入が必要となる。推定に用いることが可能な発光を得るために試料の作製、調整と評価を行う。試料と実験系の構築が整ったのち、それらを用いて実際に試料からの発光を用いて高速―適応量子状態推定実験を行う。さらに量子科学技術研究開発機構の五十嵐研究員と共同で、試料として生体分子の検討も並行して行う。実験系の推定速度と対応した試料の検討と作製を行い、高速ー連続適応量子状態推定実験系で偏光角度推定を行い、生体計測への応用を実現する。
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