2018 Fiscal Year Annual Research Report
多数回解析による汎用的地震シミュレーション手法の開発
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18J22867
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 拓真 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | GPU計算 / 有限要素解析 / 多数回解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題が計画している内容は大別して,「非線形有限要素解析高速化手法の開発」と「多数回計算を用いたデータ分析の導入」である.それぞれにおける研究実施状況についてまとめる. 「非線形有限要素解析高速化手法の開発」に関しては,特別研究員採用期間前に開発を進めていた,GPUを用いた線形有限要素法による地殻変動計算手法の拡張を行い,CPUと同一の計算結果が得られることを確認している. まず,地殻変動計算用プログラムに関して粘弾性解析が行えるよう手法の拡張を行った.開発手法を用いて,地中海周辺を対象とした自由度24億程度の粘弾性解析が可能となっている.また非線形地盤増幅解析に対してもGPU計算の導入を行った.GPU計算機環境上において,自由度が3000億となる大規模解析が現実的な時間内で完了することを確認した.同様の計算機を利用して,地下構造物を含めた地盤構造解析を行った.地下構造物は複雑な形状を有するため解析を行うためには大自由度問題を解く必要があったが,開発された手法によって地下構造物と地盤構造との相互作用を考慮した解析が現実的な時間の範囲内で可能となった.これにより信頼性の高い被害推定が実現すると期待される. 「多数回計算を用いたデータ分析の導入」については,地表面上での地震波を再現する内部地盤構造を推定するための手法開発を行った.地盤震動においては物性値の異なる層の構造によって地震波が複雑に増幅するため,内部地盤構造を考慮した解析が重要となるが,計測のみでは十分な分解能で内部構造を得られないことが知られている.この問題に対して,最適化手法を導入し,異なる地盤構造モデルに対して地盤震動解析をそれぞれ計算することで観測データを最も良く再現できる地盤構造を得るという手法をGPU計算機環境上で開発した.開発手法を用いて,既往の研究が行った地盤構造推定の過程を再現できることが確認できた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の当初予定においては,現時点までに大別して3つの開発または検討を計画していた.それぞれ「動的地震応答解析手法の導入とアルゴリズムの検討」,「有限要素モデルの生成と有限要素解析の連成計算手法の開発」,そして「動的地震応答解析を基にした地盤構造最適化問題の求解」であり,いずれも計画通りに進展している.以下でそれぞれに関して述べる. 動的地震応答解析手法の拡張はすでに実装が完了しており,GPUを搭載した大型計算機上で良好な性能およびスケーラビリティがともに実現することを確認済みである. 有限要素モデル生成と有限要素解析の連成計算手法の開発に関しては,GPUが連立一次方程式を高速に求解する間に,CPUが次に使用する有限要素モデルの作成を同時に行う手法を開発しており,有限要素解析を行う際の大きなボトルネックであったモデル生成時間が隠蔽される形で計算コストの削減が実現している. 動的地震応答解析を基にした地盤構造最適化の求解に関しては,上述した二つの開発手法とパラメータ探索法を組み合わせることによって,モデル生成と有限要素解析を高速に多数回処理する最適化手法の開発が完了しており,CPUのみでの計算と比較すると数十倍以上の高速化につながることが評価できている.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては,引き続き有限要素解析の高速化手法の開発,および開発された手法を用いた多数回解析によるデータ分析手法への応用を並行して行う予定である. 有限要素解析をさらに高速に行うにあたっては,最新世代のGPUであるNVIDIA Volta GPUの計算機構成に関する検討を進める予定である.Volta GPUには密行列同士の乗算を超高速に処理する,テンソルコアと呼ばれる特殊なコアが搭載されているため,これが活用できるようなアルゴリズムを設計することによって計算時間をさらに短縮できる可能性がある.その前段階として,テンソルコアが行う計算について,その性能分析を進めることを検討している.さらに,より有限要素解析に特化したアーキテクチャを用いた計算手法として,FPGAを導入した計算に関しても検討を進める予定である.また,多数回解析を用いた分析においては,これまでに行っている地盤構造推定を高度化する必要があると考えている.より実問題に近い複雑な問題を対象とした場合には最適化パラメータ数が増加するため,最適解の探索により多くの計算が必要になることが懸念される.最適化に要求される計算コストを削減するため,最適化手法の改善・修正を検討する予定である.
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