2018 Fiscal Year Annual Research Report
マウンテンゴリラの住民参加型保全とエコツーリズムの持続可能性に関する研究
Project/Area Number |
18J22882
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大塚 亮真 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 保全生物学 / マウンテンゴリラ / 人と動物の関係 / エコツーリズム / 作物被害 / 住民参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、5-6月と9-10月の合計4か月間、ウガンダ共和国ブウィンディ原生国立公園にてフィールドワークを実施し、残りの8か月間を先行研究のリサーチ、データのまとめと解析、論文執筆、学会・研究会での発表とその準備にあてた。 調査地滞在中は、主にエコツーリズムの実施がマウンテンゴリラの生理的な状態に与える影響を評価するため、ゴリラの糞サンプルの採取を実施した。帰国後、京都大学野生動物研究センターにて、EIAによって糞中糖質コルチコイド代謝物濃度を測定した。最終的な報告にはより多くのサンプルが必要となるが、手法の確立に関する予備的な解析結果をまとめ、1月にThe 63rd Primates Conference(愛知県犬山市)でポスター発表を実施した。 マウンテンゴリラによる作物被害対策における持続的な住民参加に関して、Salienceという指標を用いた分析方法を導入し、これまで聞き取り調査によって収集したデータの解析を進めた。物質的な利益でしか積極的な住民参加は促せないというこれまでの通説に対して、本研究の調査地では地域住民は保全活動への参加に社会関係の構築など様々な利益を見出していたことをまとめて、8月にThe 27th International Primatological Society Congress(ケニア・ナイロビ)に参加してポスター発表をした。さらに住民による作物の被害認識についても、Participatory Risk Mappingという分析方法を導入してデータ解析を進め、3月に参加したThe 11th International Symposium on Primatology and Wildlife Science(京都府京都市)でポスター発表をし、The 1st prize for poster presentationを受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
住民による作物の被害認識とマウンテンゴリラによる作物被害対策における持続的な住民参加に関して、これまで地域住民に対する聞き取り調査により収集したデータをParticipatory Risk Mapping やSalienceという指標を用いた分析、さらにGeneralized Linear ModelとAICモデル選択といった分析手法を用いて解析を進めた。これらにより分析に深みが増し、より発展的な議論が可能となった。住民参加の歴史的な経緯の解明のための会議資料や報告書の入手については現在も現地政府や当該機関と交渉中であるが、概ね前向きな返答をもらえている。 作物被害のモニタリングや畑のマッピングに関して、GPSを利用した測量を計画していたが、他の調査との兼ね合いでまだ十分にデータを収集できていない。より効率的かつ正確なデータ収集の方法を現地のカウンターパートらとともに検討中である。 糞中糖質コルチコイド代謝物濃度のモニタリングに関して、研究をはじめた直後はなかなかゴリラの新鮮糞が採取できずに苦労した。しかし、現地のカウンターパートや国立公園を管理する機関と協力して、マウンテンゴリラの新鮮糞約700個を採取して日本に持ち帰ることに成功した。調査地に気象観測機器を設置し、国立公園を管理する機関と協力して気象観測を継続している。日本滞在中には京都大学の野生動物研究センターにて、EIAによる糞中糖質コルチコイド代謝物濃度の測定を実施し、その実験技術と速度が飛躍的に向上した。現在、データの予備的な解析を進めているが、最終的な報告をするには、より多くのサンプルが必要となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
マウンテンゴリラの保全活動への持続的な住民参加に関しては、これまでに得られた研究成果をもとに現在論文を執筆中であり、近日中に保全生物学分野の国際学術誌に投稿できる見込みである。関連機関からの資料収集や地域住民への聞き取り調査(広域調査)や、住民参加プロジェクトの長期的なモニタリングを継続していく予定である。さらに、作物被害のモニタリングに関しては、地域住民らと協力して今年度から本格的なデータ収集を開始する。畑のマッピングも同様に今年度から本格的に取り組み、これらを組み合わせて論文を執筆する。 エコツーリズムの持続可能性に関して、糞中糖質コルチコイド代謝物濃度のモニタリングは今後もこれまでと同様に現地のカウンターパートや国立公園を管理する組織と協力しながら継続する。データの分析方法等について、専門家が所属する研究機関を訪問し助言を受ける予定である。しかし、持続的なエコツーリズムを継続するためには、マウンテンゴリラへの負担を軽減するだけでなく、観光客の満足度も維持していかなければならない。そこで、観光客がマウンテンゴリラのエコツーリズムに期待することや、利用している情報ソース、そして満足度に影響を与える要因を明らかにするために、半構造化インタビューとアンケート調査を実施する。さらに言えば、観光客を受け入れる側の国立公園の職員やウガンダのツアー会社の職員らとも連携し、観光客に正しい情報を伝える努力が必要がある。そのためにまずは、国立公園の職員、ツアー会社の職員への聞き取り調査を実施して、彼/彼女らのツーリズムに対する考え方について理解を深め、それぞれのアクターによるエコツーリズムに対する考え方の類似点と相違点を明らかにする。
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