2019 Fiscal Year Annual Research Report
萼裂片長の地理的勾配を示すカンアオイ属サカワサイシン節の進化過程の解明
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18J22919
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 大樹 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 繁殖特性 / 訪花昆虫 / 花粉流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
カンアオイ属サカワサイシン節は花の萼裂片長の地理的勾配を示す。このサカワサイシン節における萼裂片の伸長要因を明らかにすることを目的に、萼裂片の長さが著しく異なるオナガカンアオイとトサノアオイを用いて、両種の繁殖特性の比較を行った。本年度は以下の結果を得た。 四国・九州地方における3回の野外調査を行い、両種の各調査区における開花数の記録、結果率の記録、さらに種子の回収をおこなった。得られた種子も例年通り播種し、発芽・発根したものはDNAを抽出しSSRマーカーを用いた遺伝分析を行った。得られた遺伝データを解析し、親子解析を行うことで昨年度までの結果とあわせて4年分のデータを得ることができた。この4年分のデータを一般化線形混合モデルを用いて、種間で繁殖特性に違いがあるかを検証したところ、トサノアオイと比較してオナガカンアオイのほうが自殖率が有意に低かった。一方で、花粉流動距離や有効花粉親数、結果率には種間で有意な差はなかった。また3年分の訪花昆虫観察の結果を解析した結果、双翅目昆虫の訪花頻度はオナガカンアオイのほうが高く、大型の地上徘徊性動物 (ヨコエビや甲殻類など) はトサノアオイのみで訪花が確認された。以上の結果より、オナガカンアオイの伸長した萼裂片は、ハエ類を誘引し、他殖を促進するために進化した可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までに目標としていた4年分の花粉流動のデータの取得や訪花昆虫データは順調に得ることができ、これらのデータから年変動を加味してサカワサイシン節の繁殖特性の比較を行うことができた。一方で萼裂片の伸長の発生的基盤に関する結果は、顕微鏡の設定確立に手間取ったため、今年度はほとんど得ることができなかった。顕微鏡観察用のサンプルは既に準備できているため、次年度にこれらのサンプルの観察を行う。したがってサカワサイシン節の萼裂片の伸長要因の解明のうち、生態研究は予定通り成果を得ることができたが、発生・遺伝的基盤の解明は予定通り進めることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は共焦点顕微鏡による花の表皮細胞の観察から、萼裂片の伸長の発生的基盤の解明を行う。既にEdU蛍光を取り込ませたサンプルは準備済みであり、随時観察していくことで、オナガカンアオイの伸長した萼裂片は、細胞数が増加しているのか、もしくは細胞サイズの拡大が起こっているのかを明らかにすることができ、またこうした伸長が起きるタイミングも明らかにすることができると考えられる。さらにサカワサイシン節の繁殖特性に関する論文を執筆、投稿を行う。
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Research Products
(3 results)