2018 Fiscal Year Annual Research Report
Bi/非磁性金属界面で顕在化するラシュバ効果を用いた新奇スピン変換物性の研究
Project/Area Number |
18J22975
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松島 真之 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | スピントロニクス / スピンホール効果 / スピントルク強磁性共鳴 / ビスマス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では最終的な目標として、Bi/非磁性金属界面におけるラシュバ効果に起因するスピン流-電流変換現象の解明を設定している。その初期段階として単結晶Fe上に成長された高配向Biのスピンホール効果によるスピン変換物性の解明を目指した。なおBiのスピン変換物性には依然議論の余地が残されているため、Biの基礎学理の解明に繋がることも期待している。 試料にはMgO基板上にFeとBiを順に成長させたものを用いた。反射高速電子線回折による結晶成長中のその場測定と作製後のX線回折から、Feは単結晶、Biは高配向のテクスチャー構造であることが確認された。 本研究では高配向Biのスピン変換効率であるスピンホール角を評価するためにスピントルク強磁性共鳴法を用いた。これは以下のような測定手法である。Bi/Feの二層膜を微細加工し導波路中に組み込んだ試料に対して交流電流を印加する。Bi層を流れる電流は周囲にエルステッド場を発生させ、Fe層の磁化にトルクを与える。またBi層を流れる電流の一部はスピンホール効果によってスピン流へと変換され、Fe層へと注入されることで磁化にトルクを与える。上記の状態の試料に対して外部磁場を掃引するとFeの強磁性共鳴時に直流電圧が生成される。Feに与えられる2種類のトルクは切り分けが可能であり、各々に起因する起電力の比を求めることで、Biのスピンホール角が評価される。 スピントルク強磁性共鳴法によって高配向Biのスピンホール角は0.2-0.3と評価された。スピンホール角が大きいことで知られる他の物質を同様の手法で評価した結果(Ta:-0.15、W:-0.30)と比較しても絶対値が十分大きいといえる。また非晶質Bi(0.02)や多結晶Bi(0.00012)のスピンホール角と比較しても大きいことから、結晶性の向上がスピン変換効率の向上に繋がることを示唆する結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、高配向Biのスピン変換物性の評価には動力学的スピン注入法という実験方法を用いることでBiにスピン注入することを想定していた。これはBi/Feの二層膜においてFeの強磁性共鳴を誘起すると、磁化の角運動量がスピン角運動量としてBi層へと受け渡されるという現象を利用したスピン注入法である。この手法を用いた場合、スピン変換物性としてスピン変換効率に当たるスピンホール角に加え、物質内でスピンが減衰するのに要する距離であるスピン拡散長を評価することが可能となる一方、スピンホール角を評価するにあたり歳差磁化の緩和時間に反比例する量であるダンピング定数が追加で必要となる。この実験手法からスピンホール角を評価するには強磁性体単層膜と非磁性体/強磁性体二層膜の双方においてダンピング定数の評価が必要となるが、非磁性体側に角運動量が受け渡され歳差磁化の緩和が早くなるため、原理的に後者の方がダンピング定数が大きくならなければならない。しかしFe単層膜とBi/Fe二層膜について比較した場合、双方のダンピング定数に殆ど差が見られないか後者の方が小さくなることが確認された。既存の枠組みでは説明できないこの現象の原因の考察や、ダンピング定数を用いずにBiのスピンホール角を評価する手法の探索・選択の実施の結果として、現在の進捗状況は当初の研究計画よりやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
スピントルク強磁性共鳴法によるBi/Fe二層膜系におけるBiのスピンホール角の評価結果と比較するために、Pt/Fe二層膜を導入することで同様の測定を実施しPtのスピンホール角を評価する。本測定法で得られたPtのスピンホール角が他の強磁性体を用いた二層膜系におけるスピンホール角の報告値と大きな差がないと確認されれば、高配向Biのスピンホール角が十分大きい事の裏付けとなる。一方で有意な差が見られた場合、Feの寄与によるものと考えられるため、寄与を取り除く手法の検討にあたる。 高配向Biのスピン変換物性が評価され次第、Ag/Bi/Fe三層膜系を用いたスピン変換物性の評価に移る。Bi/Ag界面ではRashba-Edelstein効果と呼ばれる電流-スピン流変換現象が発現していることが知られている。この現象の発現は界面を構成するBiとAgの面方位に依存すると考えられていて、Bi/Fe二層膜系におけるBiはその上にAgを成長させることでこの効果の発現が期待される面方位となっている。また結晶状態の良好なBi/Ag界面を用いてのRashba-Edelstein効果の電気的観測には前例がなく、高い電流-スピン流変換効率が期待される。上記のような性質を示す三層膜系をBi/Fe二層膜系の時と同様に加工・測定することで、観測される起電力からBiのスピンホール効果の成分を切り分け、純粋にRashba-Edelstein効果からの寄与のみを評価することを目標とする。
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