2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J22986
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂田 諒一 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
|
Keywords | フォトニック結晶 / 半導体レーザー / 変調フォトニック結晶レーザー / ビーム走査 / LiDAR |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、自動車や自動運転への関心が特に高まっている。この自動運転の実現のためにはLiDARと呼ばれる、レーザービームをスキャンすることで障害物を認識するシステムが必要不可欠である。従来のビームスキャンの方式の多くは機械を用いているが、動作速度や耐久性、安定性、デバイスの大きさなどの観点から課題がある。近年、そのような観点から、機械を用いずにビームをスキャンする様々な方式が研究されている。その一つであるフェーズドアレイを例に取ると、波長可変レーザーを外部光源として必要とし、また温度を変調して出射方向を変化させるが、これらに起因して動作速度や耐久性、安定性、デバイスの大きさなどに課題がある。 本研究では、これらの課題を一挙に解決できる可能性を秘めた手法として、変調フォトニック結晶レーザーに注目する。フォトニック結晶レーザーは、半導体レーザーの内部にフォトニック結晶という、100nm程度の空孔を波長以下の間隔で周期的に並べたナノ構造を形成し、これをレーザー共振器として利用する面発光型のレーザーである。さらに、空孔の構造に変調を加えた設計をすることで、変調フォトニック結晶レーザーでは任意の斜め方向にビームを出射できる。単体のレーザーはおよそ100μm角など、かなり小型であるため、様々な向きに出射するレーザーを集積化し順番に駆動することで、ビームが走査できる。集積後もデバイスが1枚のチップに収まるため、小型で安定な、回路駆動による高速なビームの走査の実現が期待される。本研究では段階的に研究を進めており、本年度は変調フォトニック結晶の作製法について、従来のウエハ融着法に比較して光損失の低減が期待できる埋め込み再成長法の検討を行った。また、変調の方式についても検討を行い、位置と大きさを同時に変調する複合変調という新たな変調方式を提案し、複合変調デバイスにおいて、性能の向上を初期的に実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はまず、従来のウエハ融着法に比較して光損失の低減が期待できる埋め込み再成長法の検討を行った。埋め込み再成長法においてはドライエッチングによって形成した柱状の空孔に再成長を行い、空孔を閉じることで従来の手法より欠陥の少ない構造が形成できる。しかしながら、再成長によって空孔の形状が小さくなるため、従来の2次元位置変調では、再成長前の空孔が一部重なってしまう問題が判明した。そこで、位置変調を1軸に制限する1軸射影変調を採用することで、空孔の重なりを回避して埋め込み再成長法による変調フォトニック結晶レーザーの作製に成功した。設計通りの角度への出射が確認された一方で、光出力のピークパワーは従来のデバイスと同程度(~10mW)に低く、また高電流注入時はビーム形状がドーナツ型になってしまうという課題があった。 そこで、上記の課題について、変調フォトニック結晶の原理からその原因を検討した。変調フォトニック結晶においては正方格子のM点の共振状態を利用している。M点ではバンド端A,B,C,Dの4つの定在波の固有モードが存在するが、バンド端A,Bでは電界の節に、バンド端C,Dでは電界の腹に空孔が位置する。従来の空孔の位置を変調する方式では、バンド端A,Bにおいては位置をずらすことで線形に電界を放射させることができるが、バンド端C,Dにおいては位置をずらしても、打ち消しあうままで電界を取り出せないことが明らかになった。デバイスにおいては放射および損失の小さいバンド端C,Dで発振したため出力パワーが弱く、ビームもドーナツ型になっていたと考えられる。そこで、全てのバンド端において消失性干渉の回避が可能な、複合変調という新たな変調方式を提案し、複合変調デバイスにおいて、性能の向上を初期的に実証した。以上の研究により、当初の予定を上回る成果を得ることができたため、当初の計画以上に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において、埋め込み再成長法を用いた変調フォトニック結晶レーザーの作製に成功し、また複合変調という新たな変調方式の導入によって、光出力についてピークパワーで従来の10mW程度から100mW程度への向上および、ビーム形状についてドーナツ型から単峰な形状への改善を達成した。今後は複合変調フォトニック結晶の最適化、およびアレイ化による回路駆動での高速なビーム走査の実現の2点を中心として研究を推進する。 まず、複合変調フォトニック結晶の最適化について述べる。新たに見出された複合変調の有用性が初期的には実証されたものの、その構造はまだ最適なものではないため、より適した構造を探索する必要がある。3次元結合波理論を用いた数値計算、新たな試作デバイスの作製および評価、より詳細な理論検討を実施することによって最適な構造の探索を行う。 続いて、アレイ化によるビーム走査の実現について述べる。現在の試作デバイスは単体のレーザーデバイスであり、ビーム走査を行うためには、単一チップへとアレイ化する必要がある。LiDARなどの応用を見据えると、密にレーザーを集積する必要があり、マトリックス状にアレイ化することが重要である。しかしながら、マトリックスアレイに際して、2点課題がある。1つ目はp側およびn側の電極がレーザー光を阻害しない何らかの工夫が必要であるという点、2つ目は隣接するレーザー同士で引き込み現象などが起こらないように、各レーザーを電気的に分離して独立に駆動する何らかの工夫が必要がある点である。これらの課題について、今後検討を行い、5×5ないし10×10のアレイ化デバイスの作製を行う。 これらの研究においてうまく成果が得られれば、ワンチップで、高出力・高ビーム品質で高速な2次元ビーム走査デバイスの実現、さらに将来的にはLiDARを筆頭とする様々な分野への応用が期待される。
|
Research Products
(6 results)