2018 Fiscal Year Annual Research Report
記憶の再固定化を利用したトラウマ記憶の減弱の臨床応用と回避による阻害効果の検討
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18J22991
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
仁田 雄介 早稲田大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 記憶の再固定化 / 回避行動 / イメージ書き直し / トラウマ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の主な成果は以下の通りである。 実験研究により、回避行動が再固定化を利用した介入を妨害することを示した。またその研究成果をまとめた論文を国際誌に投稿し、採択された(「Psychological Reports」にて印刷中)。再固定化進行中に回避行動を行う条件(回避条件)と行わない条件(統制条件)を比較することで、回避行動が再固定化を利用した恐怖記憶の減弱に及ぼす影響を検討した。統制条件では恐怖反応は想起試行後の消去訓練により低減し、再発しなかったことから、恐怖記憶自体が減弱されたことが示唆された。回避条件では恐怖反応は低下しなかった。また、消去訓練後と再発テストにて、回避条件は統制条件に比べて恐怖反応が大きいことが示された。以上のことから、回避行動が再固定化進行中の安全情報の取得を妨害し、恐怖記憶の減弱を妨害することが示された。つまり、本研究により、恐怖記憶を想起した後に恐怖対象を回避していると、再固定化が進行している間に恐怖対象が安全であるという情報が入手されず、恐怖記憶が減弱しないということが明らかになった。 トラウマ関連疾患への治療法として使用されている「イメージ書き直し」と記憶再固定化の関係についてレビューし、今後の研究の課題点を明らかにした。そのレビュー論文を国内誌に投稿し採択された(「不安症研究」にて印刷中)。イメージ書き直しとは、恐怖記憶のイメージをより安全な展開のイメージに書き直す技法であり、心的外傷後ストレス障害などの治療に使用されている。イメージ書き直しのメカニズムには未だ不明な点が多いが、記憶の再固定化を利用した恐怖記憶の減弱が起こっているという主張が存在する。以上の背景を踏まえ、イメージ書き直しと再固定化の関連を指摘した研究をレビューし、イメージ書き直しと再固定化の関係について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度前半には当該特別研究員は、再固定化を利用した介入に対する回避行動の影響を検討するための実験研究を行った。この研究により、回避行動が再固定化を利用した介入を阻害する要因であることが明らかになった。また、この研究の成果は国際誌である「Psychological Reports」に投稿され、アクセプトされた。この研究により得られた知見は再固定化を利用した介入を臨床応用する際に重要な知見となると考えられ、大きな成果であると言える。平成30年度後半には、これまでのイメージ書き直しと再固定化の関係に関する研究動向を調査した。この文献研究により、これまでの研究の問題点や今後の研究の解決すべき課題点が明らかになった。また、この研究の成果は、国内の学会誌である「不安症研究」にてアクセプトされた。これらの知見は、今後イメージ書き直しと再固定化の関係に関してさらなる研究を進め、再固定化に関する基礎研究と臨床実践の距離を埋める上で重要な知見となる。以上の2点の主な成果は、記憶の再固定化の臨床応用に向けた研究を進めるという目標と、その阻害効果を明らかにするという目標に向かって、当該特別研究員の研究が着実に進められていることを示していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度実施した研究では、回避行動が再固定化を利用した恐怖記憶の減弱を妨害することを明らかにした。それを踏まえ、今年度実施する研究では、再固定化を利用した臨床介入法であるイメージ書き換えに対する回避の影響を検討することを目的とする。具体的には、イメージ書き換えを実際の臨床場面にて使用している様子を録音、またはビデオ撮影し、その後回避の程度を評定する。評定結果と治療効果の関連を検討することで、イメージ書き換えに回避が及ぼす影響を検討する。受入研究者が院長を務める足立区医療生活協同組合綾瀬駅前診療所(心療内科)にて参加者の募集を行う。研究の具体的な進め方や緊急時の対応などについて、研究協力を依頼する診療所の医師や心理士との打ち合わせを重ねる。研究参加の同意の得られた患者に対しスクリーニングを行い、除外基準に当てはまらないトラウマ関連疾患の患者1名を対象に、まずは予備的研究を行う。その後、研究参加の同意の得られた患者に対しスクリーニングを行い、除外基準に当てはまらないトラウマ関連疾患の患者20名を対象に研究を行う(20名中5名のデータ収集が終了する) 。介入やデータ解析にあたり、研究補助を雇用する。
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