2019 Fiscal Year Annual Research Report
ニューロン分化の過程で協調的に多数の遺伝子発現を制御する機構の解明
Project/Area Number |
18J23116
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂井 星辰 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | ニューロン / クロマチン / 遺伝子発現制御 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに大脳新皮質下層ニューロンの分化過程を追跡しクロマチン凝集状態の変化を解析したところ、神経系前駆細胞において特定のエピジェネティック修飾が導入されていた領域において特にクロマチンが脱凝集してオープンになり、近傍の遺伝子の発現量が増加していたことを見出した。 本年度の研究において配列解析をすすめることで、これまでに見出したヒストン修飾導入領域に特に結合する転写因子を同定した。この転写因子はニューロン分化過程において発現量が大きく減少し、ノックアウトすると近傍の遺伝子の発現量が有意に増加することから、同定した転写因子は「未分化な神経系前駆細胞において注目したヒストン修飾が導入された遺伝子の発現を抑制することに重要な因子である」可能性が示唆される。これまでニューロン分化過程において、注目したヒストン修飾が導入された遺伝子を選択的に活性化するメカニズムは知られておらず、本研究において注目している転写因子がその一端を担う可能性がある。今後この転写因子が神経系前駆細胞においてヒストン修飾の制御を介してニューロン分化関連遺伝子を抑制している可能性について検証する予定である。 また、成体の大脳新皮質ニューロンは遺伝子発現やエピジェネティック状態の面で多様であるにも関わらず、胎生期のニューロン分化過程において、個々の新生ニューロンは似たような遺伝子発現状態の推移を示すことが知られている。そこで私は、個々のニューロンにおいて、将来の分化先のニューロンの性質に対応したような遺伝子発現の許容状態の多様性があらかじめ規定されているのではないかと考えた。本年度シングルセルATAC法により、ニューロン分化過程における個々の新生ニューロンのクロマチン凝集状態の変化を追跡した。今後さらに解析を進めることでクロマチン凝集状態の多様性がいつどのように生み出されるのかを検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究により、大脳新皮質ニューロンの分化過程において、神経系前駆細胞の段階で標的遺伝子を抑制することを介して適切な時期にニューロンを生み出すことに貢献する転写因子の候補を同定することができた。現在本転写因子の過剰発現およびノックダウン実験を準備中であり、次年度中に見出した転写因子が神経系前駆細胞においてヒストン修飾の制御を介してニューロン分化関連遺伝子を抑制する可能性を検証できると考えられる。 また本年度の研究により、ニューロン分化過程における個々の新生ニューロンのクロマチン凝集状態の違いにもアプローチすることができた。本年度に得られたデータをさらに解析することで、「エピジェネティック状態の多様性の基盤の創出」という新しい観点でニューロン分化過程における遺伝子制御メカニズムの意義にアプローチすることが可能となった。以上の点において、本年度において研究計画を当初の計画以上に進展できたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後見出した転写因子が神経系前駆細胞においてヒストン修飾の制御を介して標的遺伝子の抑制に寄与していた可能性について、過剰発現およびノックダウンを行ったうえでヒストン修飾状態の変化を調べることで検証を行う。 また、ニューロン分化過程における個々のニューロンのエピジェネティック状態の多様性について、シングルセルATACにより得られたシークエンスデータを用いて擬時間解析を行うことで、ニューロン分化のどの段階でどのようなクロマチン凝集状態の多様性が形成されているのかを調べる。また、見出されたそれぞれのクロマチン凝集状態の違いを解析することで、それぞれの状態を生み出すメカニズムに迫ると共に、胎生期におけるクロマチン凝集状態の多様性が成体脳におけるニューロンの多様性にどのように貢献しているのかについて検証する予定である。
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