2018 Fiscal Year Annual Research Report
Naイオン輸送性V型ATP加水分解酵素のエネルギー変換機構、機能分化機構の解明
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18J23220
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
飯田 龍也 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | Enterococcus hirae / 回転分子モーター / V-ATPase / V1-ATPase / 1分子計測 / 化学力学共役機構 / サブステップ / バックステップ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、腸内連鎖球菌 (Enterococcus hirae) 由来の回転分子モータータンパク質V1-ATPase (EhV1) のATP加水分解と回転運動の関係 (化学力学共役機構) を解明する為に、EhV1の1分子回転計測を行ってきた。 野生型EhV1について、ATPの代わりにATPγS (ゆっくり加水分解されるATP類似体) を用い、ADP存在下で1分子計測を行った。その結果、回転とは逆向きに一瞬だけ戻るバックステップが観測された。同様のバックステップは、ATP分解が遅い変異体EhV1でもADP存在下で観測された。バックステップには-80°とそれに続く-40° (合計-120°) の2種類があり、それぞれADP結合とATP解離が引き金だと分かった。EhV1は1回転の間に3つATPを分解し120°ずつ回転 (フォワードステップ) することや、120°フォワードステップが40°と80°サブステップから成ることが既に分かっており、今回観測されたバックステップがフォワードステップの逆反応だと仮定して、40°と80°サブステップがATP結合とADP解離で引き起こされることが示唆された。 リン酸解離のタイミングを決める為に、高濃度リン酸存在下でEhV1の1分子計測を行った。その結果、高濃度リン酸存在下 (濃度0.5 M、イオン強度1 M) でEhV1の回転速度が低下した。しかし、高濃度KCl存在下 (濃度1 M、イオン強度1 M) でも同程度の速度低下が観測された為、速度低下はリン酸に特異的なものではなくイオン強度によるものだった。従って、EhV1へのリン酸結合による速度低下は起こらず、EhV1とリン酸の親和性は低く、ATP分解で生成されたリン酸は速やかに解離する可能性が示唆された。 上記の研究結果を踏まえ、EhV1の化学力学共役機構のモデルを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
計画では、申請から採用までの期間に、1分子計測でEhV1の化学力学共役機構を解明し、その結果をまとめた論文を投稿して1年目にはEhVoV1の生化学計測と1分子計測へと移行する予定であった。しかし実際は、EhV1によるATP加水分解反応の生成物であるリン酸の解離のタイミングを確定するための追加実験を優先した。いくつかのアプローチを試みたが、残念ながら直接的な証拠となるデータは得られなかった。現状のデータでも論文にまとめることは十分可能であるため執筆にとりかかったが、初めての原著論文ということもあり、当初の予想よりも完成に長い時間を要した。尚、本論文は投稿済みで、現在査読評価中である。このように1年目は当初の計画と異なり、EhV1の化学力学共役機構解明のための追加実験の遂行、および論文執筆にほぼ全ての時間を費やした。このため、EhVoV1の生化学計測、1分子計測に取り組むまでには至らなかった。しかしながら上記論文は、V1-ATPaseの化学力学共役の詳細を明らかにした初めての成果である。関連の研究分野にとって重要な進捗があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、腸内連鎖球菌 (Enterococcus hirae) 由来の回転分子モータータンパク質VoV1-ATPase複合体 (EhVoV1) の生化学計測、1分子計測に取り組み、EhVoV1のエネルギー変換機構、機能分化機構の解明を本格的に進めて行く。具体的には下記(1)~(3)を行う。 (1)EhVoV1のATP加水分解方向の回転のNa+濃度依存性について調査する。様々なNa+濃度条件下において金ナノ粒子で標識したEhVoV1の1分子計測を行う。Voに対するNa+の結合が律速過程となるようなNa+濃度条件を探し、EhV1のATP加水分解が律速過程のときの回転挙動と比較する。停止の継続時間の解析および回転トルクの測定を行い、Na+濃度と回転挙動の関係を定量的に評価する。 (2)EhVoV1のATP合成能について検証する。生理的条件においてATP合成を行うTtVoV1やFoF1のATP合成活性測定で用いられる手法をEhVoV1に適用し、リポソームに再構成されたEhVoV1にNa+濃度差および膜電位を与えてATPが合成されるか検証する。 (3)ATP合成能がある場合、生化学的手法でATP合成活性を評価する。上記手法におけるNa+濃度差および膜電位を変化させてATP合成活性のNa+濃度依存性やNa+駆動力依存性を定量的に解析する。Na+濃度差、K+による膜電位差を変化させ、ATP合成活性とNa+駆動力の関係について定量的に解析する。ただし、(2)の実験においてEhVoV1のATP合成能を確認できなかった場合は、EhVoV1やEhV1で1分子操作実験を行い強制的に合成方向に回転させてATP合成能を検証する。
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Research Products
(2 results)