2019 Fiscal Year Annual Research Report
時間制約下での運動意思決定プロセスの解明と数理モデルによる運動学習の支援
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18J23290
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
女川 亮司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 運動意思決定 / 運動制御方略 / 速度ー正確性トレードオフ / ベイズ決定理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
時間制約はスポーツをはじめとした運動場面において重要な環境要因の一つである。我々はより良いパフォーマンスを発揮するためには、時間制約に応じた運動制御方略を決定する必要がある。しかし、時間制約に応じてヒトが方略を最適化できるかについては未解明な点が多い。したがって、時間制約下での運動意思決定の特徴の解明は、熟達度を問わずアスリートの競技力向上につながる有用な知見になると考えられる。そこで、本研究は、時間制約下での運動意思決定プロセスの解明と統合的フィードバックによる意思決定の熟達化支援を目指す。 本年度は、複数の運動課題を用いて、時間制約に応じた運動制御方略の最適化が可能であるかを検討した。選択行動においては、選択肢数が増加するほど情報処理に時間がかかる”速度ー正確性トレードオフ”が存在し、時間制約に応じて適した”速度ー正確性”の設定を行う必要がある。そこで、時間制約に応じて運動制御方略を最適化できるかを明らかにするために、運動制御の最適性を定量化する手法の一つであるベイズ決定理論をもとに、参加者が用いた方略の最適性を評価した。その結果、被験者間かつ課題間で類似した最適性・非最適性が存在し、多くの被験者が共通して、正確性を高めようとすることで過度に時間を費やしてしまうバイアスをもつことが明らかとなった。 本研究の成果の一部をまとめた論文は、 Scientific Reports誌に受理された。また、本研究の成果の一部を、日本体育学会、日本基礎心理学会、Motor control研究会、日本スポーツ心理学会にて発表した。現在、未発表の実験結果について、論文を執筆しており、国際誌への投稿準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動においては、(1)報酬の時間変化、(2)目標の時間変化、などの周囲の変化を考慮に入れた制御が必要である。今年度は、ヒトはこれらの要素をどのように考慮に入れて、運動の計画を行っているかを中心に研究し、その成果を論文としてまとめた。 (1) 報酬の時間変化についてわれわれの行為の報酬は利得と確率によって決まる。しかし、これまでの運動意思決定研究においては、主に利得を操作することでヒトの運動意思決定の特徴を検討してきた。本研究では、利得が変化する状況と確率が変化する状況での意思決定を比較することで、報酬時間変化をもたらす要素の違いが意思決定にどのような影響を与えるかを検討した。その結果、ヒトは報酬変化要素の影響を強く受け、その影響は経済学で知られている「リスク回避性」によって説明されることが明らかとなった。本研究について論文は Scientific Reports誌に受理された。また、本研究の成果の一部を、日本体育学会、日本基礎心理学会にて発表した。 (2) 目標の時間変化について:われわれは、潜在的な目標が複数存在する状況で行動を開始することが求められる。そのような状況においては、目標が定まっていない中で動作を開始する必要がある。本研究では、複数の潜在的目標が事前に提示され、運動を開始した後に最終的な目標が判明する運動課題を用い、潜在的ターゲットに与えられた時間制約に応じて、いかに動作計画が行われるかを検証した。その結果、ヒトは、時間制約に応じて動作遂行方略を柔軟に調整するものの、その方略選択は理論的な最適解から逸脱することが明らかとなった。加えて、最適解から逸脱しやすい条件に参加者間で類似性が存在することが示された。本研究の成果の一部を、Motor control研究会、日本スポーツ心理学会にて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、ヒトが時間制約に応じて意思決定を最適化することが困難であることが示されたため、これらの研究成果をまとめ、国際誌に投稿する。現時点で解析は完了しており、現在論文を執筆しているところである。今年度中の国際誌での採択を目指して執筆作業を進める。 また、本年度は、「情報のフィードバックによる運動学習の支援可能性」を検証する。これまでの研究から、ヒトが時間制約に応じて意思決 定を最適化することは困難であり、とくに、時間制約が厳しい条件において、判断に時間をかけ過ぎることで、結果として得られるパフォーマ ンスが低下してしまうことが明らかとなっている。これらの研究結果を踏まえ、今年度は、参加者の過去のパフォーマンス情報をフィードバ ックすることによって意思決定の最適化が可能であるかを検証する。まず、本実験参加者のリクルートを行い(健常成人40名)、準備が整い次第、本実験を開始する(5月ー9月)。デ ータ収集と並行して、データ解析を進める(9月ー11月)。得られた結果を英語論文にまとめ 、国際誌に投稿する(11月ー12月)。 加えて、追加の研究として、意思決定の非最適性が生じる要因としてヒトが課題条件全体を考慮に入れたグローバルな最適化を行った可能性が 考えられたため、この仮説を検証するために、セット内での課題条件の分布を操作した際の最適化可能性を検証する。加えて、この実験のデー タを活用して、過去の結果をもとに方略がいかに決定されるかをモデル化する。まず、本実験参加者のリクルートを行い(健常成人15名)、準 備が整い次第、研究3と並行して実験を開始する(7月ー9月)。デ ータ収集と並行して、データ解析を進める(9月ー2月)。得られた結果を英 語論文にまとめ、国際誌に投稿する(2月ー3月)。
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