2018 Fiscal Year Annual Research Report
全ゲノム比較解析によるオニヒトデ属の種分化要因の解明
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18J23317
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
湯淺 英知 東京工業大学, 生命理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | オニヒトデ / 比較ゲノム解析 / 生物多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
オニヒトデ属 (Acanthaster spp.)種間の比較ゲノム解析を行うために、本年度は1.サンプルの入手と2.新規アノテーションパイプランの開発を行った。 1. サンプルの入手:宮崎県、タイ、イスラエルからそれぞれ太平洋種 (Acanthaster cf. solaris)、北インド洋種 (Acanthaster planci)、紅海種 (有効名無し)の複数サンプルを入手し、ゲノムシーケンスを行った。太平洋種と北インド洋種のゲノム配列は先行研究 (Hall et al. 2017)および宮崎大学の安田仁奈博士から提供のデータからそれぞれ利用可能である。紅海種に関しては、本年度入手したサンプルの1個体で追加シーケンスを行い、ゲノム配列の構築を本研究にて行った。 2. 新規アノテーションパイプラインの開発:ゲノムから種分化に関わった候補遺伝子を捜索するために、精度の高い遺伝子情報は重要である。そこで本年度は既存ツールよりも精度高く遺伝子構造を予測できるパイプラインを新たに開発し、オニヒトデのゲノムアノテーションに用いた。この遺伝子構造予測パイプラインを用いたところ、コア遺伝子の完成度で評価するBUSCO (Siamo et al. 2015)の結果において、先行研究よりも高い精度で遺伝子構造の予測を行えていることが示された。 オニヒトデのゲノム解析を進める中で未知の菌を偶然発見したため、報告者はオニヒトデの解析と並行して宮崎大学、九州大学、台湾中央研究院他と共同でこの菌の解析も進めた。共同研究者が行ったPCRベースでの解析から、この菌が太平洋とインド洋の広域のオニヒトデから検出されることが明らかになり、オニヒトデとの関係性が示されている。報告者はこの菌のゲノム配列から系統学的な位置付けや基本的な合成経路の有無といった特徴を明らかにすることで、この菌の解析基盤を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に実施を計画していたオニヒトデ属各種の集団サンプルの入手・ゲノムシーケンスとオニヒトデのゲノムアノテーションを完了することができたため、計画通りに進展している。 宮崎県での太平洋種のサンプリングは、当初の計画では自身で実施予定であったが、悪天候によって滞在期間中に海に出ることができなかった。しかしながら、宮崎大学の安田仁奈博士のご協力によって宮崎県のオニヒトデのサンプルを提供していただけたことで、ゲノムシーケンスまでを計画通りに行うことができた。 本研究でのゲノムアノテーションには新たに開発した遺伝子構造予測のパイプラインを用いて行った。遺伝子構造予測は①ホモロジーベース、②トランスクリプトームベース、③ゲノム配列ベース (ab initio)でそれぞれ行われた後、各予測結果を統合するのが一般的である。Evidence Modeler (Haas et al. 2008)やMAKER (Cantarel et al. 2008)といった既存の統合ツールが存在するが、これらは③のab intioの結果を中心とした統合を行っている。ab initioは統計量から遺伝子構造を予測することができるため、①と②でカバーすることができない遺伝子の予測を行うことができる強みがある。しかしながら、ab initioの予測にはエラーが多いという短所もあり、ab initioを中心とした統合を行う既存ツールでは本研究において重要視している精度の部分で問題がある。新たに開発したパイプラインでは①、②、③のどれかに偏った統合を行うのではなく、それぞれが持つ特徴を生かした統合を行うことで、既存の統合ツールよりも精度を重視した遺伝子構造予測を行うことができる。この成果は報告者が共著で日本分子生物学会にて発表をしている。今後はこの遺伝子情報をベースにオニヒトデ種間の比較ゲノム解析を進めて行く。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、本年度において構築したオニヒトデ属各種各地点の集団サンプルのゲノム情報を用いて比較ゲノム解析を実施し、種間の違いの検出を行う。種間の違いを検出する手法としては、ゲノム配列を一定サイズに区切った各区画ごとに遺伝分化係数や塩基多様度といった指標を算出し、指標が外れ値を示すような区画を特定することによって種間で違いの大きいゲノム領域を見つけ出す。違いの大きかったゲノム領域とその周辺領域に存在する遺伝子を確認することで種間での違いが顕著な遺伝子を特定し、その中でdN/dSや塩基多様度から正の自然選択の影響を受けている遺伝子がないか確認を行う。この時、検出された遺伝子レベルでの違いが特定の集団間で固有のものでは無く、種間の違いであることを示す必要がある。そこで、本年度に収集した集団サンプルとは別の地点のインド洋と太平洋のオニヒトデのゲノムデータを入手するために、サンプルの収集・ゲノムシーケンスを来年度も引き続き行う。 オニヒトデのゲノム解析中に偶然見つかった菌に関しても、本年度においてオニヒトデの解析と並行して得られた成果と共同研究者の成果をとりまとめて、来年度中に学術論文に投稿を予定している。
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Research Products
(9 results)