2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18J30015
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
仮屋園 志帆 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 種内多型 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.背景と目的 多様な生物を育むサンゴ礁は、近年の環境変動により減少している。サンゴの種内の遺伝的な違いの理解はサンゴの保全に重要であるだけでなく、種内の多様性の理解に繋がる。報告者はコユビミドリイシというサンゴでは一部の遺伝子が遺伝子有無の多型を示すことを発見した。このような多型は、個体間の遺伝子の存在の多型、つまり遺伝子の機能の有無に直結するため、サンゴ個体間の違いに直接関わっていると予想される。そこでコユビミドリイシ集団で遺伝子有無の多型を示す遺伝子を網羅的に明らかにすること、遺伝子有無の多型を示す遺伝子の環境適応への関与を検証することを目的とした。 2.内容 (1) 報告者はこれまでの研究で、公開されている1個体由来のコユビミドリイシ全ゲノム塩基配列のデータ(参照配列)から、遺伝子有無の多型を示す遺伝子を発見した。この多型の存在は、全ゲノム解読に用いられた個体にも “無”の遺伝子、つまり欠失した遺伝子が存在した可能性を示している。そこで、このゲノム解読に用いられた1個体で欠落していた遺伝子の情報を得るため、報告者が採取した複数個体から参照配列に存在しない単一コピー遺伝子の探索を行い、参照配列で欠落している遺伝子を明らかにした。 (2) コユビミドリイシゲノムに存在する機能的制約下にある単一コピー遺伝子を抽出した。解析には、報告者が採取した個体と公共のデータベースに登録されていたコユビミドリイシ複数個体の次世代シークエンスの情報を用いた。1個体でもその遺伝子をもたない場合、それを遺伝子有無の多型がある遺伝子として抽出した。この方法により、コユビミドリイシ全体に存在する遺伝子有無の多型を示す遺伝子を明らかにした。機能的制約下にある単一コピー遺伝子が遺伝子有無の多型であることを示すことで、この多型の重要性を示すことができた。この結果は論文としてまとめ、現在投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は申請時の計画通り、公開されているコユビミドリイシ全ゲノム塩基配列と報告者自身が決定した次世代シークエンス配列を用いて、コユビミドリイシ集団内で遺伝子有無の多型を示す単一コピー遺伝子の全体像を明らかにすることができた。研究の成果は国際学会、国内学会にて積極的に発表し、本年度以前に行なった研究を論文として本年度に出版することができた。さらに、本年度の結果を論文として投稿している。これらのことから研究計画の遂行と成果発表について、期待通り進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に明らかにしたコユビミドリイシで遺伝子有無の多型を示す遺伝子の多くは、機能がわかっていない遺伝子であった。そこで、遺伝子有無の多型を示す遺伝子の機能について理解を深めるために、遺伝子の機能解析を試みる。計画としては、コユビミドリイシで遺伝子有無の多型を示す遺伝子の中で、相同遺伝子が刺胞動物のモデル生物であるネマトステラに存在する遺伝子を特定する。その後、ネマトステラを用いて遺伝子機能解析を行う。 また報告者はこれまでの研究で、コユビミドリイシでは特定の蛍光タンパク質遺伝子配列の有無が多型で存在し、それが形質に関連することを明らかにしていた。しかしコユビミドリイシの全ゲノム塩基配列データでは蛍光タンパク質遺伝子のアッセンブルが不完全だったために遺伝子配列全長を用いた分子進化解析は行えていなかった。コユビミドリイシの近縁種で、より長くアッセンブルされた全ゲノム塩基配列が公開されたため、そのゲノムデータを用いてコユビミドリイシで遺伝子有無の多型を示す蛍光タンパク質遺伝子の分子進化解析を行い、遺伝子有無の多型が維持される過程について理解を深める。 これら2つの課題で得られた結果を取りまとめ、学会で発表するとともに、論文としてまとめて投稿する。
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