2018 Fiscal Year Annual Research Report
Function and network of Priestess in diversification of Ryukyu islands local community
Project/Area Number |
18J40001
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
澤井 真代 立正大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 琉球列島 / 女性祭司 / 儀礼実践 / 神認識 / 村落祭祀 / 社会の多様化 / 生業と祭司職の両立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、社会の多様化が進展する琉球列島南西端の八重山地域において、琉球地域に根差す信仰・宗教文化の中核を担う女性祭司たちが生業と祭司職の両立を模索する動態、また祭司としての職能を拡大させる動態を、現地調査により明らかにすることを目的する。 本年度はまず、八重山地域社会の多様化の実態把握に向けて、行政の広報資料を調べ、地元の日刊新聞を定期的に読み込み、八重山への入域観光客数の高水準での推移とその背景、宿泊施設及び賃貸家屋物件の高水準の稼働率、行政による移住者支援の具体的政策等を確認した。 次に、八重山諸島石垣島で活動する複数の女性祭司に着目した現地調査を7~8月及び3月に実施した。その結果、移住者が過半数を占める伊原間の祭祀実施に合わせて他村落から通う女性祭司「ツカサ」の宗教実践、村落祭祀のほかに多様な社会活動に携わり、近年はリゾートウエディングの司祭も務める平得のツカサの宗教実践、琉球王国時代に整備された国家的祭祀組織において八重山地域のツカサの長に位置付けられた「大阿母」の継承者の今日における儀礼実践と神認識、伝統的宗教文化を重んじる村落として知られる川平のツカサ及びツカサ経験者の生活環境の変化に伴う神認識の変化と不変、以上4つの具体的課題を明確化するとともに課題考察のための資料を収集することができた。 また、琉球列島全域の中で八重山地域の女性祭司の儀礼実践・神認識の特質を解明するための文献調査を進め、琉球王府の儀礼歌謡集『おもろさうし』の解読、琉球王国時代の王府儀礼に記述が割かれる『琉球国由来記』の解読、琉球列島各地の民俗誌の検討を行なった。 以上により、従来、個別村落で伝統的宗教実践に従事する存在として描かれることの多かった琉球列島の女性祭司について、社会の変化に呼応しながら祭司としての生き方を模索する現代八重山のツカサの動態を照射する研究を、具体的に進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、琉球列島南西端の八重山地域において進展する社会の多様化の状況の把握、及び多様化する社会状況下、琉球地域に根差す信仰・宗教文化の中核を担う女性祭司たちが生業と祭司職の両立を模索し職能を拡大させる動態の把握の両課題について、文献調査・現地調査を通じ具体的に研究を進めることができた。 とりわけ後者の女性祭司に着目した現地調査に関し、当初予定していた村落単位の祭祀を担う「ツカサ」のみならず、八重山地域のツカサを統べる立場にある「大阿母」の現代における継承者への詳しい調査を行ない得たことが、大きな成果だった。村落を超えた範域としての八重山全域を統べる大阿母にあっては、儀礼実践の方法や、神認識の在り方に、村落単位で活動するツカサのそれとは異なる部分がある。大阿母と、各村落のツカサの宗教実践とを照合することによって、琉球・八重山地域の宗教文化の特質がより鮮明に明らかになる。 またツカサに対して大阿母という比較考察の対象が得られたことにより、ツカサの宗教実践上の枠組み、特に祭祀範域について、前提を問い直す方向で考えるようになった。本研究では、個別村落のツカサが近年、宗教活動の場や職能を広げていることについて、社会の多様化に主にその背景を探ってきた。しかし大阿母の宗教実践の詳細について資料を得たことによって、各村落のツカサが宗教活動の場や職能を模索しながら広げていることの契機を、現代社会の変化のみにではなく、各村落のツカサの歴史的・文化的背景にも探る必要があるのではないかと考えるに至っている。この問題に関しては、本研究課題に掲げる女性祭司の「ネットワーク」に当初とは異なる角度から着目して、歴史史料と民俗誌の記述を再検討しながら考察を進めていく。以上のように、現地調査によって課題解明に向けての新たな視角を得ることができたため、本年度の研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度、八重山諸島石垣島において複数村落で実施した女性祭司に着目しての現地調査からは、人口に占める移住者の割合、都市化の度合い、村落の成り立ち等の様々な要素から成る各村落の宗教文化の独自性を確認することができ、そうした各村落独自の歴史的・文化的背景のもと、女性祭司の多様な在り方について資料を得ることができた。今後も引き続き、可能な限り多くの村落に調査に入り、各村落の歴史と文化に即して女性祭司の多様な在り方を捉えていく計画である。二年度にも引き続き、石垣島の諸村落での調査を継続する。さらに同時に、八重山諸島の西端に位置し日本の国境に接する与那国島へと調査範囲を広げることを計画している。 八重山の中心地として行政・交通・商業・教育上の諸施設が整備されている石垣島とは異なり、与那国島は高等学校が設置されていないため若者が進学のために島を出ざるを得ず、過疎化が進行しており、女性祭司のツカサは現在一人にまで減っている。こうした状況下、与那国島のツカサがどのような神認識や島社会への思念をもって祭祀に臨んでいるのか、現地調査により資料を収集し、考察を進める。その成果は、可能であれば今年度中に日本民俗学会において口頭報告することを考えている。 日本民俗学会へは、初年度に行なった大阿母への調査の成果をふまえてまとめた論文も投稿する予定である。 このほかに二年度は、日本口承文芸学会における、琉球王国時代の儀礼歌謡集『おもろさうし』中の表現についての口頭報告(6月)、東京・八重山文化研究会における、八重山大阿母の現代八重山社会に生じる問題への対応の在り方についての口頭報告(7月)を予定している。また、法政大学沖縄文化研究所へ、八重山への宮古からの移住者のライフヒストリーをまとめた論文を投稿する予定である。
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