2019 Fiscal Year Annual Research Report
Function and network of Priestess in diversification of Ryukyu islands local community
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18J40001
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
澤井 真代 立正大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 琉球列島 / 女性祭司 / 八重山大阿母 / 移民 / 憑依 / 対峙 |
Outline of Annual Research Achievements |
琉球列島における女性祭司の活動と機能に着目してフィールドワークと文献調査の両面から考察を行ない、多様化が進展する琉球地域社会の宗教文化について、現在の動態とともに、持続の基盤にある特質を明らかにすることを目的とする本研究では、2年度目に、以下の研究を実施した。 まず、琉球列島南西端の八重山地域においてフィールドワークを行ない、石垣島川平、伊原間、大川及び、与那国島における女性祭司への聞き取り調査を進め、現在の島嶼地域社会における女性祭司の儀礼実践と神認識に関する資料を集積した。とくに石垣島大川では、琉球王国時代に八重山地域の女性祭司を束ね、八重山と琉球王府の祭祀機構とを結節する役割を担っていた「八重山大阿母」職を現在継承する女性への聞き取り調査によって、現大阿母の半生と活動の詳細について資料を得ることができた。その成果をまとめ、日本民俗学会第71回年会において口頭発表を行なった。現在、発表に基づく論文の作成を進めている。 また、現在進行する社会の多様化の歴史的側面と地域的特質に着目し、八重山に多様な出自の人々が出入する歴史の一端を、宮古諸島に出生し、第二次世界大戦中に移民として南洋群島に渡り、現在八重山諸島石垣島川平集落に住む一人の女性のライフヒストリーを記述することを通じて考察する論文をまとめ、法政大学沖縄文化研究所『沖縄文化研究』47号に投稿した。 大阿母への調査から得られた信仰観から着想を得て、琉球王府の宮廷儀礼歌謡集『おもろさうし』中の歌謡に出る「つゝ」という言葉を多角的に検討する口頭発表を、日本口承文芸学会大会において行なった。続けて「つゝ」という言葉をめぐって文学・儀礼実践・歴史的展開について考察を進めて執筆した同学会への投稿論文では、琉球列島の宗教文化を捉える鍵概念とされてきた「憑依」とは対照的な「対峙」の要素を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複雑化・多様化する琉球地域社会における、在来の宗教文化の中核を担う女性祭司の活動の実態と特質を考察する本研究では、具体的に八重山地域を対象として、① 地域の多様化の実態調査とその歴史的背景への考察、② 現在の女性祭司の儀礼実践と神認識の調査を進めながら、③ 琉球列島における宗教文化の特質解明に向けた考察を行なう必要がある。本年度は、①に関し、島外からの移住者が増加を続ける八重山社会の現在の動向を、地元の日刊紙・刊行物における報道や統計資料によって引き続き追うとともに、八重山に多様な出自の人々が出入する歴史の一端を、一人の女性のライフヒストリーに着目して考察する論文にまとめた。②に関しては、夏季に八重山諸島で女性祭司への調査を行なったほか、随時電話によっても女性祭司から話を聞き、資料を集積している。とくに、八重山全域という広範囲を祭祀範域とする女性祭司「大阿母」が、現代八重山に生起する社会問題と伝統的な祭祀・信仰をどのように結節させ、その儀礼実践をどのような神認識をもって説明しているのかという点については、日本民俗学会第71回年会における口頭発表の中で考察した。その成果は昨年度中に論文にまとめることができなかったが、論文執筆に際し当初予定していた追調査は、昨年度末以来の外出自粛の社会状況を鑑みて取り止め、現時点までに得ている資料によって論文を執筆したいと考えている。③に関しては、琉球王国時代に編纂された宮廷儀礼歌謡集『おもろさうし』中の「つゝ」という語句について、文献と、フィールドワークから得ている資料から検討し、従来の宗教文化研究で重視された「憑依」とは対照的な、神と人、人と人の「対峙」という観点から琉球列島の儀礼行為を説明する有効性と可能性を提示する論文をまとめた。 以上より、本研究の全体としての調査の進展及び成果発表の進展の状況は、おおむね順調であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
女性祭司が社会においてどのように働き、また、社会からどのような働きを求められているのかという点に留意して、引き続き、八重山諸島各地での現地調査を計画している。現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、八重山地域への渡航を控えているが、今後、状況の推移に注意し、琉球列島への渡航の安全性が十分に確保された時点で、現地調査を再開する予定である。2018年度の調査で出会った八重山地域のツカサの長に就く女性祭司「大阿母」の儀礼実践と神認識に着目して考察を行なう論文を今年度中に執筆するうえでは、日本の社会/文化人類学及び民俗学で推進されてきた沖縄研究における、「村落」を単位とする考察の枠組みそのものを、研究史の精査を通じて批判的に検討し、沖縄研究の厚い蓄積に、現在の本研究を連繋させたいと考えている。 また本年度は、昨年度に引き続き、琉球列島の女性祭司及び宗教文化の特質を考えるうえで、神霊が人に「憑依」して一体となり、宗教行為上の目的が遂げられるという従来の観点とは対照的な、二者が二者のままで「対峙」することによる儀礼行為や宗教的観念についての考察を進めるために、口承文芸学会大会において「『おもろさうし』の声」という題目で研究発表を行なう予定である。琉球王国時代に編纂された宮廷儀礼歌謡集『おもろさうし』中に用いられる「声」に関わる表現を複数の角度から検討し、神と人、人と人の対峙の関係性とそこにおける「声」のあり方を考察する。 なお、昨年度、日本民俗学から提唱された「妹の力」の概念の有効性を再検討する研究会に参加したことを契機に、「女性の霊力」としての「妹の力」の概念を日本民俗学者の柳田國男が組み立てるうえで、沖縄学の祖とされる伊波普猷の研究がどのように関係したのかという、研究史上の問題を検討しており、本年度中の発表に向けて準備を進めている。
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