2019 Fiscal Year Annual Research Report
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18J40204
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上田 紗也子 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2018-04-25 – 2021-03-31
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Keywords | 大気エアロゾル / 硫酸アンモニウム / 電子顕微鏡 / 室内実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大気中に多く存在する硫酸塩エアロゾル粒子の形状について、粒子形態と粒子の生成・変質過程および光学特性との関係を明らかにし、粒子形態情報を活用し易くすることで、エアロゾル粒子の気候影響についてより正確に理解することへの貢献を目指している。研究は、A:大気観測で見られる粒子形態とその分別条件の整理、およびB: 実験的手法による粒子形状の再現とで構成されている。前年度は研究Aを中心に過去に実施した観測データの整理を行ってきた。当該年度は、研究Bを中心に行い、固体型粒子の変形に関する実験を行った。硫酸アンモニウム溶液から人工的に作成した粒子を観察した。また、大気中での粒子がおかれる環境を模し、作成した粒子に異なる湿度条件を経験させることで、大気中硫酸塩粒子に近い粒子形状の再現を目指した。名古屋大学超高圧電子顕微鏡施設の透過型電子顕微鏡(TEM)を利用して粒子形態の観察と元素分析を行った。室内実験の結果、大気中に多く存在する硫酸アンモニウム含有粒子の形状が、経験した湿度に応じて変わることが示された。さらに、研究Aでは、2013年に参加した海洋研究開発機構の学術研究船・白鳳丸の太平洋航海(KH-12-1)で採取した鉱物粒子の試料について、粒子断面の構造解析のための追加分析を行った。鉱物粒子内部の構造と変質の関係を示した結果について、国際的学術誌に成果を公表した。また、継続的に名古屋で測定している光散乱式粒子数濃度計数器の一年間の測定データをまとめた成果について、前年度に引き続き国際誌への投稿作業を進め、2020年度に受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、これまでの観測の成果の整理と実験から成るもので、それぞれの成果をフィードバックさせながら双方を進めてきた。2018年度に行った観測データの整理では、硫酸塩の中和レベルと硫酸塩粒子の相(液滴か固体か)とに関係性があることが示唆されたが、固体型粒子の形態の変遷要因については、観測した粒子組成のみでは説明することができなかった。当該年度行った研究Bでは、大気中で見られた硫酸アンモニウム主体粒子の3種類の形状の再現を目標に、硫酸アンモニウム溶液から人工的に調整・作成して捕集するためのシステムを制作した。粒子の乾燥速度など大気過程に近づくようシステムを改良したが、大気中で見られる結晶型粒子を再現することができなかった。そこで、作成したシステムで再現していない異なる過程に着目し、固体粒子の準安定状態に焦点を当てた実験を行った。準安定状態に曝した乾燥粒子の形態を観察するため、NH4NO3およびNaClの飽和溶液を用いて相対湿度を調節した密閉容器にTEM試料を曝露し、曝露前後のTEM試料を観察した。この実験により、球型や凝集型の粒子が結晶型に変形する様子が観察された。観察された粒子形状の変化は、固体の硫酸アンモニウムが準安定状態の湿度条件下で粒子内の分子配列が整い安定した構造に移行したことを示唆した。以上のように、室内実験はその結果に応じて当初の予定から内容を変更したが、これまでの観測データの整理と室内実験により、観測される硫酸塩粒子の形態の変遷メカニズムを、粒子の酸性度と経験した大気湿度によって概ね説明することができたため、研究は概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に行った室内実験により、硫酸アンモニウム含有粒子の形態が経験する湿度に応じて変遷することが示された。前年度に整理した観測データと合わせて、観測される硫酸塩粒子の形態の変遷メカニズムを、粒子の酸性度と経験した大気湿度によって概ね説明することができた。室内実験の成果については、国際的学術誌に投稿するための原稿の準備を既に進めており、2020年度はじめにこれを投稿する予定である。観測データの整理に関する成果については、今後、室内実験の結果を改めてフィードバックし、より詳細に整理した上で、国際的学術誌での発表を目指す。室内実験で粒子形態との関連が明らかとなった湿度について、過去に観測された粒子形態をどれくらい説明できるか検証する予定である。一方、室内実験の結果から、フロー式の測器に結晶型粒子を導入することは難しいことが判った。光学測定器の所有者・管理者の異動や現在の社会情勢も加わり、当初予定していた光学測定装置での測定は、現状実施することが難しい。代わりに、2014年度の能登半島での観測で測定した光散乱係数とサイズ別粒子個数濃度との比較により、粒子形態との関係性の検証を試みる予定である。2019年度までの解析で関係性が確認された、大気エアロゾル試料の粒子形態とエアロゾル酸性度に関する結果と合わせて、異なる形態の大気エアロゾル粒子が出現する条件をより活用しやすいパラメータで表現することを目指す。
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Research Products
(4 results)